武田俊

2018.9.28

日々のしぐさ #001|オープンワールドで(フラヌール)

「日々のしぐさ——Daily behavior」は、毎日1枚のイラストを描き、そこからの類推で生まれたエッセイをあとから添えたシリーズです。

 

オープンワールド、と呼ばれるジャンルのテレビゲームがある。
これは超広大なマップをまるっとディスクの中に取り込んで、プレイヤーはその世界を自由に行き来することのできるもの。
タイトルによって主人公がギャングだったり魔法剣士だったり西部劇のガンマンだったりするけれど、ストーリーを追うことのできるミッションがあって、それを進めているだけでも楽しい。動かせる映画であり文学だ。指令を受けた場所に出かけて、ターゲットをやっつけて報酬を得る。そのお金で新しい服を買ったり、車を買ったり。

それでも、なかなかストーリーを進められないのは、町を歩くとふいに「家で怒ってるかみさんのかわりによ、なんとか謝ってきてほしいんだ…!」みたいなどうでもいい市井の人々のお悩み解決をオファーされたりするからだ。

本来のストーリーを忘れたまま、ばかみたいなおつかいを頼まれて町を歩く時、ふいに知らない路地に迷い込んだりする。そこがギャングの拠点だったりして、相手の認知ゲージがいっぱいになるまえに、急いで回れ右をして逃れる。
追手を振り払って車をでたらめに飛ばしていると、そこはもう足を踏み入れたことのない場所だ。その時おとずれるのは、子どもの時、はじめてとなり町まで出かけたときのような、ワンダー。

その時の気分のままで、歩く。こういうことって、もう現実の町ではなかなか感じにくくなっている。だからすこし心細くも、実は世界のほとんどが自分の知らない場所できていると知った時の高揚を反芻しながら、遊歩する。
散歩と冒険のプリミティブな快楽は、いま、デジタルで拓かれた町の中にある。