武田俊

2019.2.13

空中日記 #024 |空の壁の向こうはどうなっている?

10月1日(月)

季節の変わり目や気圧などをもろにくらいダウン。またしても熱を出す。こればっかりはもう子どもの時からそうなので、仕方ないと思い、ひとつミーティングを飛ばさせてもらう。そして熱が下がったときのためにと、いつもどおりお楽しみタワーをサイドボードにつくる。つまりNintendo switchや本が積まれる。しかし毎度これらは実際のプレイヤーや読者を必要としない。枕元に好きなものが積まれる事が重要なだけで、かれはそこに積まれるだけでぼくにとっての守護者となる。

昨晩は、ぼくのイラストに七尾旅人さんがいいね!をしてくれて、とってもうれしかった。と思ったら、今日は千葉雅也さんがいいね!をしてくれて、またうれしくなった。しかしこの現象はなんだろうと思う。大人になって子どものように新しくなにかに取り組む者を、世界は支援するようにできているの?

10月2日(火)

復活。
そして今日は新代田キャチボールクラブの分科会で、有志による練習の日。羽根木公園の球戯広場に向かうと、サーモンアンドトラウトのソムリエにしてtoldのギタリストであるザキヤマくん、はるかかなたKAI-YOUでバイトをしていてそのあと代理店に入っていまは休職中の竹下、今日はじめましての折居さんがすでに投げはじめていた。折居さんはスワローズガチ勢ということで、めちゃくちゃ知識も深く何よりすばらしかったのは、バレンティンのユニフォームをきていたことだった。ぼくも来シーズンはユニフォームを買おうと思う。

竹下のピンク色のグラブが形づけから戻ってきていたので、はめさしてもらう。事前のヒアリングで「けっこうやわらかめで」とお願いしていたので、すでにだいぶなめらかでなかなかいい感じ。ぼくは左足をおろしきってから体重移動を行う、前のキャッチボールでつかんだフォームを試す。そして少しずつ球が集まってきたら、いよいよちゃんと変化球練習をしてみた。サイドスローで投げてた昔のスライダーの握りは、今のフォームでは斜めに曲がり落ちるブレーキの効いたスライダーになっていた。これはウイニングショットに使えそう。カーブは……これはまだまだ練習が必要だ。初めて投げてみたチェンジアップは……ストレートだった……。

練習後ザキヤマくんとおしゃべりをしながら下北沢マリオへ。色々ギアをチェックする。カウンタースイングがあって、あれ今思えば買っておけばよかったんだよね。ザキヤマくんはアンダーアーマーのパーカーを買っていた。帰ってすぐ着たら、マリオのにおいがして幸せだったって。そういうのってとってもいいよ。

そのまま村世界に向かい、一度荷物をおろして大黒湯へ。この時、15時すぎ。八幡湯か大黒湯か迷って阿久津さんにどっちがいいかLINEで聞いてみると「大黒湯!(八幡湯行ったことないけど)」というレスが届き、にっこりして大黒湯に向かった。美川憲一を聞きながらお風呂に入った。野球のあとは、旅行用のシャンプーとかのセットを持ち歩くことにしようと思う。村世界に戻って仕事をしていると、たかくらがやってくる。お互いにいい感じに作業を進めたあと、ジャンプで久しぶりのサシ飲み。ホッピーで、やきとり、ポテサラ、ハムカツ、とかそういうのを食べる。たかくらと、飲食店におけるバイブスについて、仕事のこと、芸術のこと、生活のことなど脈絡なく話しあう。こうしていると、2015年の下北沢での日々のことを思い出す。あの時は、週に3日はこうしてたかくらと話していた。たった3年前でもあの頃のぼくらはまだ20代で、今よりも血気盛んでその分危うくて、そしてふわふわと恋をしたりして暮らしていた。あの時みたいに、みんなにあいたい! と強くおもった。

そのあと安東さん来て串カツの民屋へ。ぼくは今度は黒ホッピーにする。紅生姜の串揚げは、噛み切れないようにできているのか? なぜか貯金の話になり、それぞれのお金に対しての価値観が立ち上がっておもしろかった。最後はMJも合流して、ナイマへ。ここ最近なかなかできていなかった、昔みたいにみんなでだらだらとあてもなく、しかし生きている以上とっても大切にしている事柄についておしゃべりしあう、という時間を過ごした。こういう夜が、仕事やなにかピンチが訪れたときの踏ん張る力を強く鍛え、また生活の中での穏やかな気持のプランターのようなものをこしらえてくれるのだと感じた。

お昼、巖谷國士『シュルレアリスムとは何か』読み始める。たかくらが、キュレーターのろばとからおすすめされて読みはじめていて、いいよと話していた。すると後日Twitterのちくま文庫アカウントで「祝15刷!」なんてポストしているのを見て。シユル・レアリテとしての超現実。これは読みはじめて、すでに導入として、そして概論としての名著の予感に満ちている。

10月3日(水)

真利子哲也監督『宮本から君へ』のブルーレイボックスが届く。
人生でもっとも重要なマンガのひとつを、大学時代のサークルの先輩が撮った。
そのことだけでこんなにうれしくなるのか、というほどうれしい日。

10月4日(木)

夜中、じゅんこが眠ったまま急に高い声で笑いだして、恐ろしくなった。
たしかリビングで照明を落としてゲームか何かをしていて、彼女の声は距離が離れている寝室からそれでも届いてきた。カラカラ、といった乾いた高い声だった。

本当にこわくなってきたので、寝室にいって寝言に対して会話をしてみた。
「どうしたの? 何がおもしろいの」
「うふふふ」
「…どうしたの?(こわごわ)」
「おふとん」
「ん?」
「みんなで、おっぱいのおふとんをつくったの」
「!?」
「大きいねえ、大きいねえ。……でもちょっと表現が、直接的だねえ」
「なるほど……」

いったいぜんたいどんな状況だったのだろうか。
これに限らずビジュアルシンカーの人の見る夢っていうのは、空間や色彩が独特だから彼らの夢の話を聞くのが好きだったりする。

10月5日(金)

昔によく行っていた、代々木上原のDISHにネオさんとランチに。
いろいろ喋りながら、DISHライスを食べる。手羽先の八角とかで煮たやつが乗っていて、これをちょっとずつ削り取るようにしてご飯に混ぜ込みながら食べるのが好きで、今日もそうやってそれぞれの残量に注意しながら食べていった。
ネオさんの皿を見ると、手羽先がちょんと残されていて
「食べないの?」
と聞いたら
「うん。なんか違うと思った」
とこたえた。
そのなんか違う、というのはおそらく八角のことで、それについてなんか違う、という一言で説明したのがなんだか異様におもしろく、一日そのことを考えていた。

そのあと空中に行って、ずっと引き伸ばしていたある連載のための、エッセイにようやくとりかかる。今までずっとプロットにしていて、すぐそこで映像になっているある本と、記憶の中で救いたかったある人物のエピソードが、少しずつ物語になっていく。あそこで生きていた自分について、今のぼくがそっとその時の生活を拾い上げるようにして素描していく。記憶の浅瀬でずっとこだまのように鳴り響いていた日々と風景が、モニターの光の中から擬似的な活字の姿として現れ、数行進むたびにまた過去の時間が息を吹き返していく。それで一気に4000字ほど書いて、ふむこれで原稿用紙10枚分か、と思う。

ここまで来るのに長い時間がかかって、それは過去を描き出すためのシステムづくりに時間をかけ過ぎてしまっていたからだった。このシリーズともうひとつ、自伝小説を書くというのがぼくに現状書き手としてくだされているオファーで、つまりそれはある程度の長さと構成を持った文章群を記すということだから、これまでのツールで不足だと感じていた。まず導入したのは、ひとつのドキュメント上で文章を書く上でほぼ必要なすべてを満たす機能を持ったエディタである「scrivener」だった。これはSF小説家の藤井太洋さんが導入しているツールで、とても優れたアウトラインプロセッサーだ。ひとつのドキュメントファイル上で、コルクボードを使ったカード式でプロット管理をできたり、必要な資料ファイルを格納できるストレージなどもあって大変魅力的なので、ぼくはそこにせっせとプロットや人物一覧などを書き込んでいった。ようやく本文にトライできるぞ、というところでエディタに書き込んでみるが、なぜか意識がぶつ切りになってしまう。そうか縦書きにすればいいかと思って設定してみるも、レイアウトがいい感じにならず、そこに時間をとられがんばって調整してみるも、理想的なものにはならなかった。それならば、これまた素晴らしいエディタであり、この空中日記の

10月6日(土)

前日の記録は、おそらくその場で何か別の事態が発生し、それ以来手をつけられることがなく本日となった。

シャインマスカット、シャインマスカット。
一日中シャインマスカットのことばかり考えていたから、オオゼキで安いのを買いました。1000円くらい。
千疋屋とかのなんだかとんでもない値段をするやつを、一度だけ食べたことがあるけれど、あれは緊張する。そして一粒が大きいのもあって、その果実ひとつぶがひとつのプロダクトであるかのように食べることになる。
でも本当はシャインマスカットに関してはがぶがぶ食べるのがよい、と思っている。一気に一房近く、がぶがぶと罪深い気持ちになりながらうっとり食べた。

夜、断食を空けたヌケメと空中のみんなで、食事にいこうとなる。
まだヌケメはアルコールと動物性蛋白質を食べられない赤ちゃんの胃、の状態だからというので、断食の先生の知り合いがやっているという精進そばというものを食べに行く。

あ、ここだという場所はイタリアンバルのようなところで、どうもその中でそばを出しているらしい。ヤドカリカレーは夜営業のバーで、昼間に間借りしてやる形態としてんブームになっているけれど、同じお店で同じ時間帯でやるのははじめてきいた。

入ってみたらばぼくらは7名で、カウンターテーブルを全部占拠することになってしまって、しかも多くがそばを頼むという異常事態になった。納豆そばを食べながら、おしゃべりをしながら、巖谷國士『シュルレアリスムとは何か』を読んだ。
夜、素振り。
カウンタースイングを意識しながら振ってみている。野球は、イメージと実在、つまり脳と身体を近づける作業で、それは大変に健康的なことなんであります。

10月7日(日)

そういえばこの土日は、空中スタジオの工事日で、そのために一日スタジオにいた。CADを使える人間が誰もいないから、たかくらがボクセルというドットが立体化したものを操るソフトを使って、10センチ角の立方体を組み合わせることで、ぼくたちが理想とする空間を描画した。それを大工さんに渡して、ここはどうなっていますか、ここはこうこうでこうこう、なんて話をして見積もりをもらい、それを支払ってそして今日になった。これまではホームセンターで買った板を天板とし、足をこれまたホームセンターで買った「安全第一」と書かれた工事現場のゾーニングで使う例のアレ(しかしなんていう名前なんだろう?)を足としたものを机とし、そこで作業をしていた。

スタジオにつくと、もう立体物はあらかた出来上がっていて、念願の横長カウンター式テーブルと、他ブーストを仕切る壁、そして本棚がサイドにくっついていて、はしごがついていて上で眠ることすらできる櫓が設置されていた。ぼくたちはほむらが買ってきたローラーを使って、ニスを塗った。3人でやるから、作業は思ったより早く、こういうことって学校出ちゃったらあまりやらないし、協力すると労働は早いってことも認識する機会が少なくなっている事に気がついた。

お昼には近くの魚屋の卸の仕出し弁当のようなのを食べた。きんべえの銀だら西京漬け弁当。とってもおいしい。店頭というか販売コーナーで紹介されていた、秋刀魚の西京漬けというのがとっても気になっている。そんなの見たことも食べたこともない。気になる……。

10月20日(土)

この日のメモ。
・90年代アメリカ映画100
・CSの武田が流れを変えたこと
・変化球の練習
・闇鍋
・『トゥルーマンショー』のラストシーン、空の壁の向こうはどうなっている?