武田俊

2021.1.19

空中日記 #36|男のお嬢さま

12月28日(月)

作り置いたものを翌日食べたくないのは、舌がまだ完全にその味を覚えているからで、インターホンが鳴ってもでたくないのは、完全にプライベートな状態を突然の来訪者に侵されたくないからだ。そういうぼくの性質をじゅんこが、男のお嬢さま、と名付けて、なんだか自分でもしっくりきて気に入っている。

似たような言葉に、乙女おじさん、があるが自分をこの言葉で評して欲しくないと思うのは、ここから匂い立つ「俺は乙女の気持ちわかってるんだぜ〜」っていう強烈なマッチョさであり粗暴さだ。でも、男のお嬢さまは違う。自らの幼児性と女性性を認めながら、男性に付された一般社会で生きるための必要条件としてのマッチョさとの間で引き裂かれそうなジレンマを感じるし、そこになおある種の気高さのようなものが失われていない、って感じがする。なんか真面目に分析したらこんな言葉になったが、ばかばかしくて楽しい。

夜、オンプラ。2020年最後のゲストはぼくのリクエストでbutajiさん。新曲「acception」がもう、本当に素晴らしい。コロナ禍のラブソングであり、ディスタンスはあらゆる愛おしいものとの埋めがたい距離の比喩になり、愛する「あなた」にはその人にとっての大切なものに置き換えられる。butajiさんの歌う「あなた」が、ぼくには音楽そのものに聞こえた。そう打ち合わせで伝えたら、曲のできた本当のエピソードを教えてくれて、それは想像もしていないような悲しい出来事だったら、なおそこから生まれたこの曲の力強さを感じた。祈りにも似た。

素晴らしい回で今年のオンプラはおしまい。しかし。3日後またここで仕事はじめをぼくはやるのだなーと思うと不思議な感じ。

12月29日(火)

夜、野口さんと。本の執筆の今後について話す。というかそもそもの、この1年で大きくフェーズが変わってしまったあれこれの中で、今の体制で進めていくべきなのか、ということをぼくから問題提起した。新しく会社をつくって版元になるって段階で、他社の本をつくるということの難しさというかおかしさというか非効率さみたいなものがあって、それならばタッグを解消してもぼくは恨んだりしませんよ、ということだった

ぼくは今、著者であり編集者だ。だから自分が会社をつくって版元になる決心をした編集者だったとしたら、自社で出す本のことに自分のリソースのほとんどを割きたいと思う。一方で、新しく編集者が創業する版元から声をかけられた著者だったとしたら、その相手のリソースの多くを自分にこそ割いてほしいって思う。それは当然のことで、だから今のぼくたちの関係はきっとお互いにとってこの後不幸の芽を育ててしまうのではないか。なんて話しているうちに、これはそっくり恋愛における別れ話と同じだよなーって思う。

ていねいに言葉を重ねて昼の部終了。そのあと年吉さんも合流して、飲み。目当てのお店がお休みか一杯かという感じで、6号通りの入ったことのないもつ焼きやさんへ。Quartzの話、ガルシア・ロルカの話、前田愛の話、いろんな話。年吉さんからぼくの文章の癖として「時代に要請され」みたいな感じで要請ってフレーズをよく使うよね、と言われる。文体は常に何かの影響下にあるから、きっと無意識に出てきていたのだろうけど、一体誰の何だったんだろう。マーク・フィッシャー?

しかしこれで、新しい担当編集者を探すというミッションが生まれた。さて、誰に声をかけようか。デビュー作だもん、たくさんキャッチボールを重ねて一緒に本を作れる人がいい。ぼくはきっとめんどくさい著者だろう、なんたって男のお嬢さまなんだから!

12月30日(水)

仕事が全然おさまらない。おさまらないまま、午後ずっと作業をしていた。
22時、長井短さんとMOTION GALLERY CROSSING番外編のインスタライブをする。今、家で全くお酒を飲まないのでこのためにジャック・ダニエルズ買っておいた。ソーダ割で。

最初、AirPodsを装着していたんだけど、これもういいやと思って外すと今度は音がうまく出てこなくなり、調整したらコメントが流れてこなくなってしまい反省。もっと慣れていかないと行けない。新しいツールは都度、触れていかないといけない。配信は好評のようでよかった。長井さんとの対話がどんどん自分にとって自然で愛おしいものになっていったのが、今年だったんだなあと思う。

ぼくはおしゃべりが好き。おしゃべりが好きなのは、より深く目の前の相手と関わっていくことができるから。ぼくは本が好き。本が好きなのは、著者がまるでうすいヴェールの中で自分だけに世界の秘密を語りかけてくれるようだから。言葉の役割と芸術。パロールもエクリチュールも、口語も文語も愛してる。

12月31日(木)

昨日仕事が納まったと思ったら、今日の深夜というか元旦に仕事初めってことになったから、まるでいつもの年末感がない。気が抜けない。それにラジオだからお酒が飲めない。ということで、PPVを購入したRIZIN26をひたすら見ることにする。13時からやっている。オープニングマッチからずっと見る。

そうしていると序盤のテレビ中継のないパートはずっとスムーズに進むものだからおもしろく、集中して見続けてしまう。平本蓮、あんなにグラウンド対応できていなかったのはちょっと拍子抜けだけど、萩原もっと早く倒せたよなと思う。というか、あの状態の平本相手にあのグラウンドスキルはむしろまずいんじゃないか、腰があまり強くなさそう。

もう時間が経ってしまったから各試合のレビューは書けないけど、ずっと見続けて目もしょぼしょぼになってしまったあとのメインの堀口戦、はじまる前まで集中力が切れていたけど、圧巻だった。カーフにはじまりカーフに終わった興行だった。これは空前のカーフキックブームがくるぞと思ったら、翌日すぐに那須川天心がカーフキックについて解説する動画をアップしていてさすがだ、と思った。

1時すこし前にタクシー呼んでTFMまで。道が空いててめちゃ早く着く。オンプラは新春特番。ぼく、大福さん、綿谷さんがスタジオに集まって、浦さんはzoomで出演っていうパーソナリティ初めて全員集合っていう趣向。特別だから軽食もランクアップしてて、まい泉のカツサンドつまむ。綿谷さんからとらやの新春紅白もなかをもらい、大福さんから手ぬぐいもらう。手ぶらで着て申し訳なくさびしい気持ち。芸能のひとたちはえらい。

正直RIZINをで体力を使ってしまっていたことに、オンエアすぐ気がついた。そして座り位置がいつもと違うからオープニングでカフを上げそこねるというこれまでで初めてのミス!焦った。3人もいると相槌ならまだいいものの、話だしがかぶりやすい。その間合いにだんだん慣れてきたな、というあたりで番組は終わった。そのまま始発までぼくはビールを1本飲ませてもらい、綿谷さんとおしゃべり。ガジェット好きのようで、2020年買ってよかったガジェット話で盛り上がる。