武田俊

2021.11.16

もう忘れちゃったあのパンチライン

11月11日(木) 小春日和

朝の草野球で、久々に4番に座る。
久々って書いたけど、20年ちょっとの野球人生の中で4番に座ったことなんてほんの数回で、最近のトレンドでチーム最強の打者を2番に置いたりってことはありながらも、やっぱり特別な打順は落ち着かないし、うれしい。で、3三振。「やばいよー、パワプロなら特殊能力『4番✗』がついちゃうよー」と言って笑いをとるのでせいいっぱい。

podcastの対面収録が11ヶ月ぶりで、収録のあいだたぶん6回くらい「やっぱり対面はいいんだよねえ」となんどもなんども言う。屋上にあがるとスカイツリーが見えて、そこまでずっと同じくらいのビルが何棟も重なっていて、海、と思う。屋上でアー写みたいな写真を撮るのは楽しい。

おにぎりと秋田料理のお店の2階で貸し切りの打ち上げ。
はじまる前に、ディストピアSFの冒頭で出てくる旧世界の生き残りのおじいさん、みたいなイメージの声で「かつてこの世界には、居酒屋ってものがあってじゃな……」という。けっこううまくいえた。終わるまでにたぶん6回くらい「やっぱり打ち上げはいいんだよねえ」となんどもなんどもいう。

みんな色んなひととご飯を食べるのが久々で、後半時空がゆがんで、大量のパンチラインが生まれる。「クラシックは電車で聞けない」っていうのがツボに入ったのだけど、文字にしたすごく普通で、文字にしたらすごく普通のことがすごく特別になるのが打ち上げ。

帰りの電車で、新しく引っ越す町のことを話す。
いっしょにいたひとはその町の出身で「小さい頃ママとあんずの並木を歩いて、私が登って上から実を落とすのね。それを凍らせてたべるのが、めちゃおすすめ!」と言われて、おすすめの店を聞くよりこれはうれしいなあ。

たおやかな感性と誠実さとしばし差し込まれる詩情(ルビ:ポエジー)にやきもちを焼いて、なかなか読み進められていなかった永井玲衣さん『水中の哲学者たち』を読む。

11月12日(金)小春日和

ダンボールアーティストの島津冬樹くんの取材にいく。
かつて某自動車メーカーのメディアの企画で、東京でひろったダンボールで島津くんが財布をつくり、そのダンボールを使っていた生産農家のひとをアポ無しで訪ねてプレゼントする、という無茶なものをやったことがある。

JA行けば見つかるっしょ、と思ったら全然で、途方に暮れながら見た瀬戸内の海の穏やかさが、むしろすごくつらかった。失意のまま訪ねた道の駅のおかあさんが、四方八方に電話をして見つかったのは、山を2つ越えた先のインディペンデントみかん農家で、つややかな肌をしたおじいさんは、なんだか豆に似ていた。

めちゃくちゃ大変だったからチーム全員よろこびもひとしおだったのだけど、ぼくはずっと頭の中で「そこは豆じゃなくて、みかんであってくれよ!」って思ってた。

ぼく、フォトグラファーのゆうたろう、島津くんで写真を撮る。こういうの大事、と最近思う。記憶は体験と物語に紐付いていて、体験と物語は写真に紐付いていて、だから写真がなくなった時に思い出せなくなるできごとはびっくりするくらい多いのだ。

頭がぽっぽして、考えたら昨日は14時間くらいしゃべり、ファシリ続けていたので、帰り道にあったホスピタリティレストランで、モンブランとほうじ茶アイスのパフェを食べる。ひとりで外食全然していなくって、すごくどきどきする。

子どもの頃からなぜかおばさまにもててきた人生で、それは今も続いているのだけど、ホスピタリティレストランのホールのおばさまは、ホスピタリティの矜持が高すぎてていねいすぎるので緊張する。緊張のあまり空気を和らげようとしたのか、「ぼく、栗とほうじ茶、すっごい好きなんですぅ」と思わず言ってしまうと、ホスピタリティおばさまは顔を崩さず「作用でございますか。どうぞゆっくりとお楽しみくださいませ」と言った。「あーそうなのう。よかったわあ」みたいなのがほんとはいいなあ。

夕方、授業。
後期はデジタルメディアについてがテーマで、今日は「デジタルメディアの与えた恩恵と危機」の回。初年度、危機と恩恵でそれぞれ100分、事例を紹介しながら語っていたら、危機についてのパートで「もう、デジタルメディアのせいで世界終わってるやん」「しかももう戻れないやん」「どうしろっていうの先生……」みたいな感じで教室全体が漆黒、みたいなムードになったので、2年目以降、がっちゃんこでやることにしたのだった。

危機のパートで、人間中心主義、グローバル市場×デジタルコマースが新自由主義を加速させる! これ以上便利になって、それがいったいなんなんだ。みたいに話してたらどんどん乗ってきてしまい、今必要なのは課題解決じゃなくて、豊かさの読み替えと問いのデザインなんだよー!! と熱弁してしまっていた。闘士かよ。「今必要なのは、革命です!」って思わず言わなくてよかったな。言ったら言ったでよかったけれど。

寝つけないのに本が読めなくて、『UFC4』のオンライン対戦をずっとやる。

 

11月13日(土)たぶん晴れ

世界で一番苦手な作業が引っ越しなのに、東京に出てきた18歳のころから、たぶん10回くらい住まいを変えてる。今日は引っ越し前最後の週末なのに、なーんにもしたくない日。晴れてるけど、外にも出ないで、ウーバーでからいハンバーガーとか頼んじゃう。

それならせめてがっつりゲームしたり本読んだりすればいいのに、『Battlefield 2042』を買おうか悩んで実況をずっと見る。シリーズやったことないから不安なのだと思い、とんかつさんに「おもしろいと思う?」とかむだな質問しちゃう。それで意を決してSteamを開いてみたら、発売は来週でした。なんだこの時間!

部屋で素振りして、代わりにメトロイドの新しいののデモをやって、やっぱり横スクロールあんま興味ないなと理解した。代わりにセール中だから買ってみた『新すばらしきこのせかい』をやってみて、やっぱり渋谷あんま興味ないわ、と思った。

 

11月14日(日)晴れ

朝からなにもしたくないのに、食欲だけ鬼。
なんでもいいから食べたいよ、と実際に言葉になって自分の口から出てきて驚く。

大学のときの飲み会で、女ともだちがさしみからポテトフライ、なすの一本漬け、メンチカツまで、とにかくテーブルにあるものをお腹に収めてて、なんかあったの? と聞いたら
「ん、これ? ああ生理の準備」
と答えられてくらくらしたことを思い出す。

でもぼくもこうやって、何でもいいから食べないと気がすまないときが、たぶん月に1回くらいある。これも生理の準備なんだろうか。