武田俊

2024.8.10

空中日記 #134|「Crying Emoji」に出てくる「不可思議」のくだりは

6月24日(月)

イオは5時45分まで眠ってえらかった。
離乳食リベンジしようにも朝は時間が足りない。送り出して、勢いで一気に家中の掃除。イオの寝床を念入りにやって、ふとんとカバー、大好きなもふもふの毛布も洗濯。ライナスの毛布的なものが、イオの場合フリース素材のムーミンの毛布で、これを触ればくちをもくもくさせながら、目を閉じる。自分で寝に入ろうとする動作でとってもかわいいのだけど、これからの季節、フリースがないと寝れないのはふびんである。

洗濯機を2回まわしたら疲れて、すこし横になりながら柴崎友香さん『きょうのできごと』。これ読むの何年ぶりだろう。保坂和志さんのあとがきが強い。そして本編、おもしろい。色んなことが起こりまくっている。昼、もらいものの高尾山のおそばを茹で、納豆、なすの煮たのの残り、ねぎ、卵黄、きゅうりのせん切りを乗せて冷やしで。暑い日はこういうのがいちばんおいしい。

午後、連絡返しまくり。今週の授業のkeynoteを整えてゲスト講師の方のマネージャーさんに送る。そんなんしてたらあっというまに17時。今日も制作の時間がうまくとれなかった。お迎え行って、帰り道にドラッグストアで切らしていたキッチンシンクのネット、パイプユニッシュ的なやつ、カビキラー的なやつ買う。いろいろきれいに便利にしたいようだ。

ばんごはんは、じゅんちゃんの買ってきたヤンニョムチキンと、あなごとさばのおすし。でたらめな組み合わせが楽しい。ワカメのスープをつくり、じゅんちゃんがサラダをつくった。アド町みながら食べて、機嫌がよくなる。

ストーリーズでkurayamisakaというバンドに触れている人がこの数日まわりにいて、「jitensha」を聞いてみると、ほうほうなかなかいいねとなるが、妙に印象的なリフが気になる。これは前にぜったい聞いたことがあると思って感情の発生を探っていたら、ヒトリエの「モノカラー」のそれとほとんどコードが同じだとわかった。それぞれから感じる印象が全然違って、ぼくは音楽のことを理論的にわからないので、誰かに聞きたい。すぐに知りたい。それでギターをやってる友達に聞いた。「ギターをやってる友達」って曲もどこかにあったはずだったと思ったらそれは「バンドをやってる友達」で、ゆら帝だった。

6月25日(火)

4時前くらい、ぱっと目が覚めて隣のイオを見ると頭から毛布をかぶって、大の字でまったく動かない。え、呼吸止まってる、と思ってあわてて立ち上がり眼鏡をかけてみると、イオだと思ったそれは彼女と同じくらいのサイズの11ぴきのねこのぬいぐるみで、イオはその隣でねじれたように横を向いて寝ていた。

5時起床。じゅんちゃんが早く起きておむつを替えてくれるという。そのまま20分くらいうとうとしていたが、出勤するひとに朝のあれこれをさせたくないのでえいやで起き、離乳食とミルクの用意。作業しながら水まんじゅうとドライマンゴーをかじる。食べさせて、体温をはかって、あやしているとあっというまに7時。送り出す。ここまで無酸素運動的。

勢いのまま洗濯機をまわし、イオの毛布たちを洗って干す。もう1回まわしてる間に砥石を水に浸し、掃除機。牛刀、出刃、三徳、ペティナイフ全部研ぐ。3週間前くらいからやりたかったことがやっとできた。最近家事のコツがわかった。ぜんぶを完璧かつ効率的に、てきぱきやろうとしないこと。ひとつひとつの動作をゆっくり、だらっとやる。やり残しがあったら明日やればいい、って感じでとりあえずやる。これはASD気質のあるぼくには苦手なことだけど、これを許すことで継続率は大幅にあがるだろう。

Podcastを録った。2回目の今回はオープニングとBGMをひこうとおもって、横田さんの音源を探る。フェードイン、フェードアウトのやり方がわかった。これがわかったことで、チャンネルごとのボリュームとゲインも調整できるようになったことになる。新しくはじめることの知見やスキルは、こうやって連動して育っていく。気持ちがいい。

午後出て、3駅先の大きな駅へ。地元駅より前に再開発されているから、情報やトンマナがぐちゃぐちゃしていて、それがたまにくる分にはおもしろく感じる。西松屋でこの夏に着倒してもらう洋服をいくつか。短パンとTシャツで、それぞれ300円〜500円くらい。それと離乳食のサポートをしてくれるものたち。お湯をかけるとレバーと野菜のペーストができて、それをおかゆにまぜれば1品できるよ、というものたちで、レトルトカレーのようなものだろう。全然使えばいいってわかってるのに、がんばってこういうものを棚から探して見聞していると、どうにか離乳食をつくることから手を抜けないか考えている父親のような気がしてきて、どんよりとした気持ちに。それが進んで、ひとりでとても心細くなって適当に買い店を出た。

はじめて行った書店でほしいものが大量に見つかるもがまん。今日着金したギャラで、村井理子『ある翻訳家の取り憑かれたに日常』だけを買う。

夜、イナダさんレシピの30分チキン、かんたんな麻婆豆腐、じゅんちゃんサラダ

研いだ包丁で、気付かないまま左手のつけ根を浅く切った。寝る前に柴崎友香『きょうのできごと』。読了。こういうふうに作者が出てくるのは、ぼくは好き。

6月26日(水)

イオが夜中にうなっていた。咳を何度もしていて、本人はすっとそのまま眠るけど、真横のぼくは都度起きる。0時から3時くらいにかけて、ほぼ起きていたので朝がつらい。5時半起床。本人はきげんよいので、まあいいか。朝の用意とお世話を、自分のイングリッシュマフィンを焼き、かじりながらする。最近朝がいちばんお腹が減っている。

送り出してから、掃除。洗濯機2回まわし、ばたり。最近型ができてきた。9時に再起動し、podcastの整音とアップ。整音はとても難しい。聞くにはじゅうぶん、というレベルから、とても聞き心地がいいというところの差は、聴覚過敏で可聴域のひろい自分にとって聞く分にはわかるけど、それがどのような作業で可能になるかがつながらない。EQを色々触ってみるも、基本がわかってないので再現性がない。検索してみても粗雑なノウハウが多いので、これはちゃんと基礎を勉強したいね。勘とノリとバイブスで見切りをつけて、明日の授業の用意をし、keynoteを整える。

作業しながらUberでもしちゃえと思ったけど、豚肉に味付けしていためたのを、チャーハンをつくって乗せた。昨日の麻婆豆腐の残りと一緒に食べたら、りっぱな昼食に。食べながら、すこしずつ見ていた『アンメット』9話。長い会話シーンがいいぞ、というのをWebで、たぶん大島育宙さんのツイートか何かで見ていて、たしかによかった。たしかによかったのだが、このシーンのファーストカット、ふたりが同時に画角に入っている引きの画のまま、ずっと会話を見ていたいと思った。映画ならまだしも、ドラマならまあ無理か。でもそれくらいコンポジションが効いていて、そのままふたりの動きと声を聞いていたかった。

夜はあたらしいpodcast「BOOKS CALLING」の初回収録。オーディオインターフェースとマイクを持って、車でゆく。駐車料金がなあと思っていたが、18時以降は500円で打ち止めというのを見つけほくほく。この場所でこれはすごい。ひろたさんがピザをとってくれて、それを途中で食べながら、3話分とる。ほんとうに楽しい時間。国立のあの5時間にわたる最高のおしゃべり空間が、再現できるということのこのよろこびよ。こひらさんに教わったマイキングのコツも意識した。

帰り道、中央道でデカいトラックにあおられた。帰ってシャワーして、すぐ音源を聴いてみる。前にテストしたときよりもはるかによい音でとれている。ぼくの耳にはこれ以上、どう整音したらいいかよくわからないくらい。ローを適当にカットすればいいかなあ。フィラーを消したり、吹いたとこやブレスを処理したり。それくらいでもうよさそうな具合。

6月27日(木)

長井さんゲスト回。学生たち、持ってきてもらったゲラを見てとてもうれしそう。そうだよなあ。学生のとき出版に関する「ほんもの」を見ることってなかなかない。ぼくも見たかった。自分が見たかったものを見せ、聞きたかったことを話す、というのは教育だからできるすてきなことのひとつ。長井さんに「あなたは、絶対に最後まで書いて」といわれてグッとくる。やりましょうやりましょう。

そうそう。長井さんは子どものころからパパにさんづけで呼ばれていたらしい。それが個人を尊重されてる感じがして、うれしかったらしい。ぼくもしてみたい。帰り道Jinmenusagi『東京人』を改めて聞く。トニー・ファーガソンのことを歌っていた。リリックの情報量。「Crying Emoji」に出てくる「不可思議」のくだりは不可思議くんのことだよな。と思って「Pellicule」を聞く。しみる。

6月28日(金)

今回のどんよりうつの原因は──もちろん複合的なものだけど──混乱している都知事選なんだと思う。ルールを利用して倫理を攪乱させるという幼い手つきもそうだし、現状を変えるために戦略的に本来の意図とは異なる候補に投票せざるを得ないという状況も、戦略的にアクションを組み立てる、というコード自体を所有していないぼくにとって、とても負担なこと。

朝、イオの髪の毛を切ろうということになり、じゅんちゃんが買ってくれた首につけるシャンプーハットのようなのをさせると、とてもうれしそうでいい顔でずっと笑っている。でも暴れて切らせてもらえない。ただかわいいだけの写真を撮って終えると、じゅんちゃんが「新種のポケモンみたいでかわいい!」といっていて、わかりそうでわからない。そうねえ、という。

6月29日(土)

6時に車で出て名古屋へ。子育ての恩恵でこれが早起きにならなくなった。今日も省エネを心がけて2500回転をめどに回していく。これがクロスポロでは、新東名でちょうど120キロをすこし越えるかどうかくらいの速度。ACCは使わない。眠くなる、ということもあるけれど、車を自分で運転しなかったら、もう車を乗る理由がぼくにはなくなってしまう気がするから。藤枝でトイレ休憩をして、直接クリニックへ。

10時半から診察。ここに通って10年経つけれど、今まででいちばん長い診察になったんじゃないだろうか。自己肯定ができないというえーえんの悩みに対して、主治医はいくつも思考のしかたを教えてくれた。登山の比喩、たまに見晴らしのいいところに出て、登ってきた道をみること。10年まえの自分がしたかったこと、あこがれていたことを今、出来ているんじゃないですか? 大衆の反応を基盤にしないこと。見下してしまうくらいでちょうどいいのこと。俊さん、もともとみんなが好きなものを好きだったわけじゃないでしょう? そういうタイプじゃないですよね? からだじゅうからエネルギーが湧いてくる。忘れないうちにメモした。

スタバで作業。文舵の会のための課題を急いでやる。ほんとうは前日提出だけど、ワンチャンいけないかなと思って。帰宅して、母としゃべりパッタイとサラダ。テレビをつけて番組表を見ていると(実家はとうとう新聞をとるのをやめた。母はたまに喫茶店で日経を読んでいるらしい)、スターキャットで甲子園の地方予選をやっていて、南山対山田と書いてある。まさかのタイミングで母校の試合。見てみることにする。20年ぶり。いやだったらすぐにやめようと思うも、わがことのようにどきどきと緊張し、わくわくもしている。20年。やっとここまでくることができた。母校の投手の子がすごくて、なんでもMAX140キロ、享栄を相手に6回1失点だったらしい。ふてぶてしさもよくて、終わってみたら7回コールドで9年ぶりの初戦突破だった。

16時から文舵の会。今日は3人しかいなかった。人数が少なくても、ぼくは楽しいので大丈夫だけど、やっぱりこの会は課題をやってこないとおもしろさも意義も半減する。今回の課題は、15字前後の文章を重ねて200〜300字の作品をつくるものと、一文からなる700字以上の作品をつくる、という対称的なもの。縛りのきつい課題は、自分の文体にない文章を顕現させてくれる。この体験がいちばん重要。

6月30日(日)

『イルクーツク2』を回収して、帰路。今見てもたのしい本だ。奥付によれば2007年とのこと。ぼくは大学3年生。タコシェかどこかで買った記憶がある。プロの作家たちが、アートピースのように、プロダクト感のある本をつくったりしていた時期。そういうムードがあった。今みたいな「オンデマンドで誰でも出版」な時代の少し前の、クラフトマンシップのインディー出版時代。てか、今はぜんぶがインディー出版時代だ。そしてすべてのコンテンツがアテンションエコノミー時代。

13時帰宅。途中、掛川PAによった。この東京⇔名古屋間のドライブもずいぶん慣れてしまって、旅情が失われ移動に成り下がってしまったから、少しでも未知の要素を加えようとして降りたことのないPAに行ってみている。掛川は藤枝とほとんど同じだった。PAのモジュールのようなのがあるみたい。イオは昨日39.2℃まで上がった。数ヶ月前なら大騒ぎだったが、慣れてきた。熱はあってもぐったりしてなく、遊ぶ元気があればすこし安心。ひじうら、ひざうらに湿疹が出てきて、でもかゆそうではなく、熱が下がってきたのでこれは手足口病だろうと推測する。離乳食もはじめは食べるのに、ときたま「へーん」と泣いて手が止まる。口の中に痛いできものができてるんだろう。食べたそうなのにふびん。

あるアーティストの映像作品への出演オファー、みたいなおもしろいのが届く。子育てに関するもの。即出ることにする。こういうのは、身体ごと向かってゆくのがよい。いつもそうしてきたように。