武田俊

2018.7.12

空中日記 #009|We have some Mindware

7月8日(日)くもり

記念日で、ディナーで、代々木上原で、ひたすら野菜を食べただけの、すこやかでシアワセな1日だった。トマトとブッラータ!ブッラータ!何度もいいたくなるブッラータ!

夜、今取り組んでいるあるまとまったテキストのために、リファレンスとなる書棚をつくった。何かを引用したり、資料として活用するためではなくって、そのテキストのリズムや文体にひたることで見えるものが見たいなあ、その影響により調整された解像度で世界に対して向かいたいなあ、その欲望のための棚となった。汗だくになりながら、棚と棚の間を回遊して必要な本を移動させた。

そうした時に思い出されたのはMindwareというフレーズで、これは小林弘人さんが編集長時代の日本版初期『WIRED』の奥付で出会った言葉だ。どれも実家に収蔵しているので原物に当たれないから記憶で書くが、とにかくこの時期の『WIRED』は記事もさることながら、日本初のフルDTPでの雑誌ということもあり印刷方式に対してもアグレッシブで素晴らしかった。奥付には、SoftwareとHardwareという項目があって、その号を制作するにあたって使用されたものたちの名前がずらりと並んでいた。QuarkXPress◯◯、Illustrator◯◯(◯はバージョン名)…なんて具合に。たしかそんな具合に。

Mindwareはその1番下に記載されていて、さてこれはいったいなんだろう、と思って読み進めると、つまりはその号を制作するにあたって編集部のマインドセットを構成した様々なジャンルの作品群が記述されているということが理解された。あるアーティストのアルバムから、書籍、映画までずらりと並んでいて、なるほど確かにその特集について何かしら共通するエッセンスのようなものを感じさせられた。世界に対してのアングル、手付き、視線、そういったもの。それを奥付に載せる! なんて格好いいのだ! と学生時代のぼくは、どこかの古書店で見つけてきたバックナンバーをブルブル震えながら読んだ。



そんなこともあって、Mindware棚をつくったわけだが、問題なのは未読了の書籍についてもそこに入れたいものがあり、そうなると安易に持ち出したりしにくくなる。ぼくの書棚は、仕事部屋、リビング、ダイニング、寝室(これは厳密には書籍を格納するスペースを持ったサイドテーブルだけれど)と分散して設置してある。

Mindware棚は当然のように仕事部屋に置いてある。ここにある書物を寝る前に読みたいからって寝室に持ち出してしまうと、戻し忘れたりして必要なときに秒で取り出すことができなくなる。秒で取り出すことは大切だ。本の場合、それはなによりも。背表紙のビジュアルで座標と内容を記憶しているから、動きすぎてはいけない。取り出せなかったその秒で、何かを失ってしまったりすることがどうやらぼくにはあるようだった。失ってしまうのだから、その何かが何かはわからないのだけど……、とにかくなんかがなくなっちゃう! それはまとまったテキストに取り組むにあたっては、なんとも避けたいことのようだ。

まあつまり何に悩んでいるかといえば、阿久津さんの『読書の日記』を毎晩少しずつ読み進めるのがこの頃の日課なのだけど、Mindware棚に入れたくなったので、その習慣を続けることが難しくなったということ。さてどうしよう。明日は朝に読むことにするか。どうか。