武田俊

2018.7.21

空中日記 #013|虚無の厚揚げ

7月12日(木)

この日の晩は「空中」の定例会だったので、村世界のぼくらのスペースに20時に集合した。「空中」とはなにか、とはいまいち言葉にしづらいが、一緒に何かをやるかもしれないために一緒に場所を借りている秘密結社のようななめらかな組織体で、編集者、ライター、Webデザイナー、映像ディレクター、ファッションデザイナー、などがいる。

それでぼくたちは、空中キャンプというキャンプをこの夏にやろうとしていて、まず大きな議題はそこだった。ぼくはかつて椎名誠が結成していた、あの怪しい探検隊のようなチームとしてキャンプをやってみたくこれを推進した。キャンプ隊長に選ばれたほむほむが、どっしりとした声でみんなに訪ねた。

「人間性を捨てる方向か、残す方向かどっちでいきますか?」

これは意見が別れた。自然の中に入り人間性を捨て去るか、共存してその時間もある種社会化させておくのか。強制力を持たない組織であるべきだから、それは参加者がおのおの選択できる余地を残しておこうぜ、そんな風に話した。

ぼくたちはキャンプをし、ラジオ番組をつくり、雑誌をつくることになった。重要なのはただひとつで、受発注関係が発生しないままに、なにかをつくることをはじめよう。そういうことだった。それがぼくたちが「空中」という空間にもっとも求めていることで、それが改めて明らかになった。

そういうわけで飲みにいくのだが、代々木八幡には大人数で飲める場所がなかなかない。「あえて魚民に行くのもたのしくない?」そんな誰かの一言で魚民に行った。チェーンの居酒屋というのは、いったいなんのために存在するのか、たぶんこうい時のためにあるのだろうけど、しかしもうしばらく行くことはないだろう。厚揚げは、虚無の味がして、ぼくたちはそれを大いに笑った。腹が美しいもので満たされるなんてことは決してなかったから、その飢餓感を吹き飛ばすかのように腹が捩れるほど、ただ、笑ってすごした。