武田俊

2020.12.20

空中日記 #029|ルーティンをちょうだい、とびきりのやつを!

10月26日(月)

ドラフト会議の日。例年どっかのホテルのホールみたいなところでやっているけど、今年はリモート。各球団ごとに小部屋に分かれて、そこに定点のカメラがついている。モニターで指名結果が伝えられていて、1位のみ重複したら抽選会場に行って引く、というスタイル。なんか迫力なくてつまらないかも、と思ったけど、早稲田の早川くんを引き当てた楽天スタッフがみんなで大喜びしている様子が報じられていて、これは大きなホールでは他球団への配慮などもあるからこんなふうには喜べなかったんだろうなと思うと、これはこれでよいものだった。ドラゴンズ単独で高橋くん指名。ホッとする。

そのままJ SPORTSをつけっぱなしにしていたら、独特の打撃理論を実践していてずっと注目していたJFE東日本の今川優馬がファイターズに指名されていてうれしかった。たしかずっとファイターズファンだったはず。イケてる指名だ。それで今川優馬の打撃フォームをYoutubeで見ていたらすごく活躍が楽しみになってきて、思わず阿久津さんにLINEする。阿久津さん「おまかせください」とのこと。笑う。

オンプラは久々にストラグラーの方で行く。納車から1年経って、ディスクブレーキの後ろ側がたまにキイキイ言うのを確認したかったため。グラベルとはいえ久々に乗るとやっぱり700cのロードバイクは走るなあ、という印象。はじめてGIOSのロードに乗ったときの「あれ、これ浮いてるんじゃない?」って驚きとともに得た感動に近いものを久々に感じられる。Serenoって名前の、そよ風って意味のバイク。

これ、ブロンプトンを買ったからわかる違いなんだろうなあ。そう思って麹町のスタジオのエレベーターを上がる。スタジオにつくと押くんに「あれ、今日は折りたたみじゃないんですか?」と聞かれて、今日はでっかい方で来たのよと伝える。浮気しちゃって、というとそのまま「いやあ、二人いるとそれぞれのよさがわかっていいよねえ」っていう下世話な比喩が口をついてでた。でもそういうことなんだよなあと思う。恋人と違って自転車の場合は、複数所持することによってよりそれぞれへの愛が強まっていくからいいことなんだけどなって思う。

5時過ぎ、帰宅してからなかなか眠れず。だんだん調子悪くなってくる。枕元にマーク・フィッシャー『わが人生の幽霊たち うつ病、憑在論、失われた未来』をひらく。ぜんぜん間違ったチョイス。体温がどんどん冷えていって、調子なお悪し。

 

10月27日(火)

格闘家Youtuberとリバタリアン、プロレスと文学、総合格闘技史、みたいなことをずっと考えている。朝倉未来が前田日明とのYoutube上での対談で「Outsider出たあとも、前田さんが何やってきたかとか正直全然しらないまんまですよ」みたいな発言をしたことがきっかけで、そこに文化と消費にまつわる、つまりぼくが好きだなと思うものがネオリベラリズムの果てに消失していったプロセスが見て取れる気がしていた。

で、何か書きたいなと。ただ格闘技はファンであっても専門外でPRIDE誕生についてはある程度しっているものの、そのある種の前史であるUWFやシューティング、パンクラスについての理解が足りないので資料を読む。『証言UWF×PRIDE』っていううってつけの本が宝島社から出たばっかりで、まずそれを。そして家にもともとあったものとして、『VTJ前夜の中井祐樹』、『サイコロジカル・ボディ・ブルース解凍』など。書き手としての菊地成孔にすごく影響を受けていた時期があったなーって思う。

 

10月28日(水)

1日資料みたり、たまにに仕事したり。メインの書棚から何冊か持ち出して、リビングのカウチで資料を読む。ってことを続けていった結果カウチ横のサイドボードに資料がたまりまくって、ひどいことになっている。なんでもとに戻さないんだろう、と思うも、それは資料を読むって行為を中断したくないからで、まだ読み続けるという可能世界を優先しただらしない結果なんだろう。もっと自室で読書したくなるように設計し直したい。

 

10月30日(金)

朝のルーティンをつくりなおしたくて、じゅんこに相談する。うちでこうなるととたんにワークショップが開催されるので、なんてお得なんだろう。贅沢。ポストイットに末端のアクションプランを書いて、それを起きたときから時系列で貼っていく。分岐ポイントも用意して、途中までしか進められなかった場合にも復帰できるようにまとめていった。

じゅんこの手術以降、彼女は比較的新しい日常に順応しているように見える。ぼくはといえば、まだ混乱の渦中って感じ。手術の日に強固に自分を「万が一のときの最終的意思決定者」というモードに置きすぎたのか、ふわふわ不安定な時間の中に取り残されているような気分で焦る。

 

10月31日(土)

じゅんことhibiのためのMTGをする。hibiというのは我々が一緒に仕事と創作と人生を豊かに行っていくためのユニットで、これは近く法人化を検討している。今日はそのためのロードマップを敷く。とここまで書いて、それは先週の土曜のことで、この日はその時に割り出した互いのタスクを報告しあったのだった。

夜、下北沢熟成室に行く。じゅんこの当座の快気祝い。ただ病気が病気なので、快気祝いって感じでもない。これからの治療計画が重要なわけで、そう考えると完治というものがなくあるのはただ寛解ってだけのぼくの病とガンは似ているのかもしれない。

前菜のショートコースだけ頼んでいたので、メインを選ぶ。19時に入店したのにもうイチボのステーキがないっていうのは、どういう仕入れなんだろうか。しかたないので鴨のコンフィを選ぶ。隣の席に田中みな実を一般人化したみたいな女と男の二人組がいて、声がでかい。とくに語尾の甘ったるさと下品さと甲高さが目立つ女の声が不愉快で、ガンを飛ばしそうになってしまう。

外食はこういうリスクがあるから辛い。じゅんこと一緒だから飲んで気を紛らわすということもできないから、困る。それでhibiの話をノートを広げながらした。ぼくは法人化までのプロセスと事業計画をつくる担当。きねづか!と思って楽しくなる。これまでいくつかの会社をつくってきたり、つくることに関わってきたけれどこのはじまりの感じはいつだってわくわくする。