武田俊

2021.3.22

空中日記 #42|煙草って、ふたりで吸う方がおいしいものでしょ?

3月15日(月)晴れ

午前中に新しいカメラが届いた。
とんかつさんとずっと話していて、それでやっとこさX-E4に決められたのだけど在庫が全然どこにもない。じゃあということで在庫確認のできた秋葉原のカメラ屋さんいくつかを先週末に回ろうとしたけれど、あいにく雨。ということでWEBでポチっていたのだった。
じゃあすぐにレンズがほしい。
それでまた相談をして、XF35mm F1.4とXF35mm F2.0まで絞れた。もうあとは店頭で決めよう、となって新宿のマップカメラまで行く。
慣れないことをすると緊張して汗をかくから、店内でぼくは汗まみれになりながら、なんども反芻したセリフを最も年長そうな店員にぶつけた。
とても親切で詳しいひとで、それぞれの作例を見せながら特徴を説明してくれる。
それによれば、事前に下調べをしたのと同じように、F1.4は神レンズと言われていて、やわらかな光が撮れるレンズ。F2.0は新しいレンズでAFは早く、そしてくっきりとクールに撮れるレンズ、だといった。調べたことでも対面した人の口から出てくるものだと、確からしさが違う気がする。
その言葉を耳にしながら作例を見ていると、やっぱりF1.4だよなあという気になってくる。でも、シルバーの本体にとりつけたとき、フジツボ型でサイドがシルバーのF2.0の造形がぴったりと来て、そのマッチングに心が揺れる。どうにか決め手がほしい。そう思ってたずねてみる。
「最後の最後でまだ悩んでしまっていて、どうにか決め手になりそうな要素ありませんか?」
すると、おじいちゃんとおじさんの間くらいの年齢の店員がこうこたえた
「そうですね。F2.0なら、今の100Fの延長上の写真。そうでないものが撮りたかったら、F1.4ですかね。もっとこう、エモーショナルな写真とか」

それでF1.4に決めた。
SDカードを忘れたので、近くのヨドバシで購入し、ルノアールに入ってすべてを組み立ててみる。真新しい、ぼくの、自分で働いて、自分で買ったカメラ。そう思うと、この手の中の小さな道具が、世界を真新しく眺めるために自分で獲得した特別なものだという意識が高まっていった。きっとにこにこ笑っていたのだろう、店員さんが少し楽しげに接客をしている感じがする。

自宅まで歩いて帰ることにする。
以前自分でつくったクラシッククロームベースの設定をここでは参照できないから、新しくフィルムシュミレーションに加わった、クラシックネガに設定して、ひたすら夕焼けを採取する。きれい。ほんとうにフィルムのようだ。でも、解像感が高すぎてちょっと自分の写真じゃないようなしっくりこない感じ。それをいいことに、THEな感じのする恥ずかしいくらいドラマチックな写真──夕日に向かいながら信号待ちをする自転車、長く影の伸びた横断歩道を渡る人、夕日の差す定食屋のウィンドウの食品サンプル──を撮りながら帰る。

3月16日(火)晴れ

11時ごろ、重い体を起こす。そのままライトをつけて、スタサプで英語。
火曜は半分オフの日けれど、今日は新宿に満を持する、という気持ちで『シン・エヴァンゲリオン』を見に行く。
もともとそこまで強く影響を受けていなくて、それはおもに色彩構成や劇伴における美的感覚が自分のそれとはずいぶん違くて受け取りづらなかったからなのだけど、テレビアニメ版、旧劇場版、そして新劇場版と律儀に観てきた自分として、何かの節目になればよいと思って出かけた。それでも気分は全然乗らなくて、それは今回新劇場版を見直した時に、「破」のわかりやすく露悪的な演出にほとほとげんなり──それは作劇としてもそうだし、これほどのわかりやすさを提示しないと現代のファンはついてこれないという時代の感覚──してしまったからで。

なので期待をせずに観たら、これがすばらしい幕のおろし方で、とってもよかった。誰かと話したいな、一番話したいのはいつもの、たかくら、マセ、新見だけど、新見がなぜかまだ観られていないので話せない。ぼくの知る限り、世界でもっともネタバレを嫌う男だ。

久々にオスロー。この間のピエール学園戦で3タコだったバッティングをなんとかしたくてきたけど、てんでダメ。3ゲームほどやってもう帰ろうと思ったら、後からきたカップルが両方とも野球経験者なのだろう、安定したフォームできれいな打球を連発していて、なぜかこのままじゃ帰れないという気になる。

頭からメカニカルな意識を全部とっぱらって、体全体でバットの重心だけを感じるようにしてスイングをひたすら続ける。そうやるとどうも、落合博満の神主打法のようなフォームにぼくの場合はなるらしい。7ゲーム打ち込んだら、感覚がもどってきた感じがする。

さかのぼってこの日記書いてるけど、読んだ本とか思い出せないからやっぱりだめだなあと思う。

3月19日(金)晴れ

くもりの予定が、春のしっとりとした晴れ。
今日は押くんと下北沢で昼飲みをする予定なので、早起きして作業する。
昨日から本格的に身体が目覚めたようで、タスクの整理をする手も軽やか。ついでにNotionで管理しているタスクボードを見やすく工夫したりする。こういう時間がないと、作業するのがいやになるからライフハック的な手段はぼくにとっては効率化ではなく、自分の中のごきげんをとってあげるケアに近いのだなあと思う。

原稿2つ編集。かなり没入する。iQOSをつけて吸ってしまう。
お酒はほとんど飲まなくなって、紙巻きたばこも人と飲んだりする時以外は吸わなくなったけれど、没入しながらテキストに接する時(長い原稿を編集したり、自分で日記以外のものを執筆したりする時)にiQOSがあるとはかどる感じがする。
はかどるというのも能率が単純にあがるというより、自分にとってその時間が好ましくすてきなもののように思えて、それで結果的に能率が上がりかつしその作業の質も向上する、という感じ。あとは時間に複数性が生まれる、ということ。

来週に控えたM.E.A.R.L. ASSEMBLEのpeatixページをつくって公開し、正午、家を出る。
X-E4をわがやにお迎えしてから、100Fを使っていたときよりもさらに散歩が楽しくなる。それはより、自分の記憶したい風景に親しい像をこのE4で撮れるようになってきたからなんだろう。おそらく、神レンズと言われているらしい XF35mm F1.4というレンズを使っているからと思う。光がやわらく、ゆったりと入ってくる感じ。

下北につくと駅前に押くんと小平さんがいる。
こちらに最初気がついていなく、その状態で自分を待っている人の表情を眺めるのがすこし好きだ。
押くんは手ぶらにニットで、小平さんははるめいたトレンチコートを着ていて、春だなあと思う。ぼくはbalのマウンテンパーカーが暑くて脱いだ。
未明まで放送があって帰宅して寝て起きてきた押くんと、その番組のあと仮眠室で仮眠し、午前の番組を終えてその足でやってきた小平さんと、この午後のために早起きして仕事をしてきたぼくとが集っていると思うと、そこには3つのばらばらを過ごしてきた人の時間がこの日の午後の好ましい予定のために溶け合っていくようで、それがうれしい気持ち。

下北をぐるりと歩いて、結局はじめて押くんと飲んだTACOYAに行く。ここはたこ焼きと鉄板焼を食べられる居酒屋のようなお店。昼からやっていそうだなと思ったら、そのとおり営業していた。
おだしにたこ焼きを入れたのと、おしょうゆ味のたこ焼き、イカ玉のお好み焼き、それにわさび味の枝豆などを選んで、ぼくはホッピーのセットを頼んだ。押くんは生、小平さんはカシスウーロン。
はたして何の話をしたかと思えば、一番したのは「最近自分がつくっておいしかったひとさら」みたいなことだったと思う。それぞれの生活の中のちょっとした工夫について話すのがぼくはことさら楽しくて、早くにこの日の仕事を片付けられた気持ちと、久々に人とゆっくり話せたこともあり、ぼんやりと心地がよかった。

紙巻きのアメスピを持ってきていたから、外に吸いに出ようとすると押くんが
「小平さんも気にせずに一緒に行きなよ。煙草ってひとりより、ふたりで吸うほうがおいしいものでしょ?」
と言っていて、いいセリフだなあと思う。
で、ふたりで煙草。そうするとちょっとだけ二人で話す感じの会話になる。
お店の入り口にはテラスのようになっている席があり、そこにイミテーションの桜が巻かれている。平日の昼から飲むということをぼくはあまり楽しめないたちで──それはたくさんの仕事の連絡が追いかけてくるから──でも、それはお花見だと思えば気がねなく楽しめるような気がして、今日はお花見、今日はお花見と心の中でつぶいやいた。

少ししてとんかつさんがやってくる。
NYでぼくがおみやげに買ってきたジャッキー・ロビンソンのラグランのロングスリーブを着ていた。次第に会話はカメラのことにうつり、みんなでテーブルの上に乗せたカメラをいじったりする。気がつけば17時くらいになっていて、はやいなあと思う。
小平さんを駅まで送っていき、これから合流するというななみんたちを待つ間、散歩をしながら写真を撮る。こういうことになるだろうと思って、そのあいだ押くんが手持ちぶさたにならないよう、100Fを持ってきたんだよ、といって渡す。
押くん、構図をとるのが上手。次第に楽しくなっていったようで、みんなできょろきょろいろんなところを見ながら歩くのが楽しい。知っている町の、知らない要素。ひとによって注目するポイントが違うのもよい。
押くんはビルのアプローチの影から、月を撮っていて、それは写真におさめるという意味では天体になぜかあまり関心のないぼくにはない発想だったので、同じ構図をまねして撮ってみる。たぶんこういうところからも、発見があるのだろう。人のまねをして撮ってみることのおもしろさ。

ななみんと半澤さんがやってくる。半澤さんははじめまして。
18時半近くになっていて、取り急ぎ近場でと陣太鼓に入る。客入りは半分くらい。
「20時しっかりに終えないとね、色々見回りが来たりしているの。ほんとおかしい話でしょ?」
とお母さんが言っていて、しきりにうなずく。
ほんとどうにかしている。

はじめましての人がいる場で、1.5時間はあまりにも短かった。
足りなかったねー、短かったねーと言いながらお別れ。そんなにたくさん飲んでいないのに、久々に人たちとおしゃべりし続けたからか、頭の芯がぼんやりと痛く、そして眠たいような気持ち。

とんかつさんとの帰り道、一番街の出口のところで、若い女性が道に倒れている。ちょっとおかしな倒れ方で恋人だろうか、男性がちょっとただならない顔でケータイを持っている。ぼくがひるんでしまっている間、とんかつさんはそばによって、声をかけた。
「救急車もう呼んでるって。だから大丈夫だよ。ぼくらに特にできることはなさそう」
と言って戻ってくる。
「そっか、よかった。でもちょっと普通の倒れ方じゃないですよね」
「うん……なんか泡吹いてた」
それを聞いたら、ぞっとしてしまった。酔って倒れてるひとからは、しょうもなさや、我が身をかえりみる気持ちや、そういうものを感じるけれど、こういう時どんな気持ちになればいいのかわからない。
日常の横にふわっと、ぼんやりとした死みたいなものは常にあって、それが忘れたころにこのように顕現する。それがぼくはきっと怖いのだと思う。

帰ったら久々にまとった煙草のけむりが急ににおいたってきて、すぐシャワーと洗濯。
じゅんこがその後帰ってきて、ぼくはたぶん少し今日の報告をして、本も読まずに先に眠ってしまった。

3月20日(土)晴れ

たくさん眠れたせいか、すっと7時半に起床。
スタサプで英単語。週に100語を繰り返していくセッションで4週目。4週目はこれまでミスった単語を重点的にやることになってて、チェックのついた96語をやる。正答率ほぼ100%で一安心。明日から400語まで。
昨日の写真の整理。押くんの撮った100Fの写真をまとめて、おくってあげることにする。写真を楽しそうに撮り始めている昨日の光景は、そのまま昨年100Fを手にした時のぼくの気持ちと同じようで、それを見ているのがうれしかった。

何か映画を見に行こう、最近じゅんことも出かけていないし、と思って一緒に見れそうな映画を考える。もうすぐ終わってしまいそうな『あのこは貴族』が武蔵野館で15時あたりからやっているので、それを予約。
じゅんこ11時にごろに起きてきたので、準備して出。ひさびさにとんくるに行く。先週からあすけんで、食事と運動の記録をとっていて、これまでなにかと記録をとることが苦手だったけれど、自分をモンスターファームのような育成ゲームだと考えると楽しくなってきて、続いている。
いつか近い将来柔術の試合に出てみたくって、自分の体格だとおそらくフェザーで出るのがいいのかしら、と思っている。柔術のフェザー級は道着を含めて70キロなので、自重のみで68キロくらいになるだろう。試合前に原料で4キロほど落とすとすると、通常時73キロあたりかと思って、そこを目標値にしてみている。

新宿についてまだ時間があるからと、御苑でも行こうと思ったら緊急事態宣言もあって閉鎖中。仕方ないので近くに見つけたコーヒーショップ「4/4 SEASONS COFFEE」というのに行ってみてテイクアウト。豆も買った。店内利用の客が行列をなしていて、どうやらみんな名物のプリンを食べたいようだった。テイクアウトなら待ち時間もあまりないようで、それでも10分ほど待つ。
「見て。探偵事務所と陶芸教室がいっしょのビルに入っているよ」
とじゅんこがうれしそうに話す。
「わ、ほんとだ。ここを舞台に小説が書きたいね。『探偵と陶芸』って短編書こうかな」

『あのこは貴族』、予約時はすかすかだったが、入ってみると8割がたうまっている。
しずかないい映画だった。階級のこと、シスターフッドのこと、東京と地方。そういったメインテーマについて考えながらも、ロングショットや男性の描かれかたのことを考える。

帰り道、駅が混んでいたから歩くことにする。
感想戦をしながら歩いていると、すこしけんか。というか、齟齬というか、ミスリードというか、とにかく解釈の深度について納得のいかないコメントをじゅんこがしたので、そこにイライラとしてしまう。深く息を吸って、写真を撮ることに集中するとざわめきはおさまった。これまでだったら、さらに激しい感情に飲まれていただろうケースが最近このようにして回避できる機会が増えてきている。これはうれしいこと。

幡ヶ谷あたりでふたりともお腹が空いてしまったので、七輪の炭火でホルモンを焼くお店に入る。ここでも写真。生肉を撮るのは楽しい。

寝る前、片岡義男『洋食屋から歩いて5分』。
「M.E.A.R.L.」の会議のときに紹介した、十条の餃子と銭湯と女の子との話を再読。しみじみとよい。この本は、ひとつひとつのエッセイの精度にはばらつきがあるものの、軽く読めるものが多くていい。そして何より、目次をひらけば、すばらしいワーディングで構成されたタイトルたちを眺めることができるのが特にいい。読まなくても、言葉の選び方、とくに引き算的に整えられたその余白にうーんと唸ってしまう。

いつもなにか書いていた人
残暑好日、喫茶店のはしご
彼女と別れて銭湯のあと餃子
トゥナ・サンドイッチにコーヒー、そしてエルヴィスの歌
撮りそこなったあの雨の日
トマトを追いかける旅
冬の寒さのなかを、ずっと遠くまで
風船ガムを求めて太平洋を渡る
二〇一一年外国旅行おみやげめぐり

ね、どれもよいでしょう?

寝付きが悪く、富岡多恵子『表現の風景』をひらく。その中で、これだ!という一節を見つける。自分の書きたいものは、まさにこういったテキストなのでは、と思って後藤さんに連絡しようとするもさすがに時間がおかしいので、一晩寝かせてみることにする。やはり重要なものが、日記と(私)小説のあいだに横たわっている気がするのだ。

3月21日(日)春の嵐

昨日のうちから、今日は、執筆、柔術、確定申告、ってやりたいことを考えていたのに、朝起き上がることができない。窓の外から、びゅうびゅうという強い風乗った雨がぴしぴしと窓を打っている。気圧を見ると急落していて、しばらく考えたが柔術をお休みすることにする。

昔からこういう時、活動できないのは自分の怠惰のせいだと思ってきたけれど、どこか納得がいかなかった。自分の性格上、怠惰で何かができなくなるというのは最も嫌うことの一つで、でも身体が動かないということに折り合いをつけてこられず、きっとそれが苦しかった。病気であり症状だ、と認識することがもう少しうまくなるといいなと思いながら、高照度光療法のひかりをつけ、浴びながらスタサプ。今日から新しい単語。TOEICはビジネスシーンでの会話が多いせいか、これまでの知らなかった用法がけっこうでてくる。

iPadでファミ通を読みながらニュースチェック。緊急事態宣言が今日からあけるけれど、飲食店は21時までの営業になるらしい。金曜に陣太鼓のお母さんと話したことが思い出される。

14時からはRIZINをつけながら、確定申告のための領収書整理。2020年はほとんどカードで決済しているから、たいしてフィジカルの領収書はないだろうと思ったら、想定していたよりあって驚く。それを日付を書いた封筒にしわけながら、序盤を見る。
途中で遅い昼食を、と思って、この間つくったホタルイカのなめろうをアーリオ・オーリオに変身させて食べる。隠し味はやはり、いしる。しばらくいしるブームがやってきそう。

渡部修斗 vs. 田丸匠
もっと長く見ていたかった。田丸の寝技の展開は見ているだけでおもしろい。結果は負けてしまったけど、もっと見ていたい選手。バックチョークで決まったけど、あれだけ時間をかけてじりじりやられたら辛いだろうなあ。

関鉄矢 vs. 堀江圭功
もっと一方的な堀江の展開になるかと思ったけど、関が2ラウンドから持ち直していてすごい! と思った。試合の中で調整をしていく、っていうことが可能なんだなあ。堀江はテイクダウンからのトップキープ、そこからパウンドアウトで決めたかったのだろうけど、それをさせない関の腰が強かったということか。

大雅 vs. 基山幹太
とってもおもしろかった! 大雅は勝っても負けても相手の魅力を引き出すいい試合をするけれど、今回もそうだった。往年のレイ・セフォーみたい。なにしろ19歳の基山の気持ちとタフネスが光った試合だった。ワンツーを起点にした直線的なパンチのコンボ以外に、上下への振り分けを疲れた状態でも自然に行えるようになったら、結果は違っていたのかもしれない。でも試合の中で、たくさんのことを吸収できたんだろうなあ。フルラウンド戦えたことがすばらしいと思った。試合後、少し泣きそうな顔は、悔しさというよりも、この試合を戦い抜けたこと、大雅の恐怖、その上で勝ちたかった気持ち、様々な思いが混在とした表情のように見えて、それが美しかった。

スダリオ剛 vs. 宮本和志
もう、スダリオこわい。試合後のエンセンもこわい。久々にバイオレンスを感じた試合。日本人でこの階級でまともに試合のできるMMAファイターっていないんだろうなあ。早く外国人とマッチ組んであげられる世の中になってほしい。

クレベル・コイケ vs. 摩嶋一整
すばらしい試合だった。摩嶋のトップキープ能力の高さ、相手の良さを殺すために選ばれるムーブのひとつひとつにしっかりとした戦略とそのプランへの自身が感じられる。それでも一瞬すきを突いて三角絞めを決めたクレベル。鮮やかで、そして華があった。最後の三角は、尾崎さんに習ったような、正対するのではなく少し腰をずらして平行四辺形のように絞る形だった。右手は相手の足をアンダーフックでとらえていて、やっぱりこの形はきつく絞まるんだろうなと思う。

武田光司 vs. 久米鷹介
泣けてくるような、気持ちと体すべてが乗っかったフルラウンドの試合だった。今大会のベストバウトでしょう、間違いなく。見ながらほとんど泣いていた。どっちが勝っても尊い、みたいな試合がスポーツを観る体験の中で、やはりもっとも尊い時間。

ホベルト・サトシ・ソウザ vs. 徳留一樹
これもすばらしい試合。クレベルと同じような、少しずらした三角がフィニッシュムーブ。徳留の試合はもっと見たいなあと思う。二人ともかっこいいファイター。しかしBONSAIの二人はほんとうにすばらしい選手。新しい選手がまた出てきそうで期待。そしてレフェリーは片岡さん。グラップリング主体になりそうな試合は、片岡さんなのかな。先週日曜にはじめてスパーで組ませてもらったから、それがうれしい。自分が、格闘技界全体の中にコミットさせてもらったような気持ちになる。

浜崎朱加 vs. 浅倉カンナ
もっと一方的になるかと思った。組みで競る試合というのは、観客には膠着状態に見えてしまうけれど、そこにはぱっと見ではなわからない力学的な攻防がたくさん展開されていることを今のぼくは知っている。だから、どんな状態でも手に汗を握ってみてしまう。

全体通して、とってもいい興行だったと思う。
RIZINは今年たくさんのチャレンジを行うだろう。PRIDEというものがこの国にあって、それがほとんど世界で最強のMMAファイターが集まる舞台だったという奇跡的な事実。それが一度死に、そのあと一体どんな花が咲くのか。とても楽しみ。

触発されて、夜トレ。柔術のためにもやっぱりフィジカルは上げたい。明日メニューをちゃんと見直すとして、今日は胸と肩。ダンベルプレス、ダンベルフライ、フロントレイズ、サイドレイズ、リアレイズをしっかりやる。フォームが少し崩れて追い込みきれてない気がする。

お風呂、Kindleで吉田修一『悪人』を読んでいたけど、乗ってこない。犯罪小説のブームが途切れてしまったのかも。落としておいた大岡昇平『成城だより』に切り替えるといい感じ。やっぱり日記はよい。日記と私小説について、今日も考える。

 

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いやー、怒涛の2月末、そして3月上旬でぶっ倒れたりしながら、3週かけてやっと平常運転に戻りかけてきた武田です。みなさんご機嫌いかが?
もうすっかり春ですね、というにはまだちょっと早いかもだけど、空気の中にゆるっと水分が増えてきた感じとか、でも朝晩はまだまだ冷えるなーとか、それってまさしく春じゃね? と思いながらすこしわくわく過ごしてます。
天気の話っていうのは、とくに約束なく会った人とか、仕事の打ち合わせのアイスブレイクがわりに交わすものだけれど、めっきりそういう会話をすることがなくなってませんかね? ってかそもそも意味のないようであるような、そういう会話自体がなくなってる、のかも。

その週、なにした? なに食べた?
なにを見て、読んで、聞いて、出かけて、どんなふうに心が動いた?
そんな話を定期的に誰かとしたくて、でもただするだけでももったいない。
ということで、奇特な知人ふたりに集まってもらって、この空中日記の末尾でその週を一緒に振り返ってみたいなーと思ったのです。
とりあえず試験的に、今回は。
とりま、メンバー紹介です。

中田 なにも理解してないんだけど、これは何をしゃべればいいんすか?
吉本 わ、出たー武田さんのあいまいなまま声かけるやつ。
武田 すんません(笑)。どーしよっか、ぼくとしてはその週ふたりが、出会ってよかった、と思うものの話を聞いてみたいんだけど。
中田 急に言われてもなー。でもあれっすね、Clubhouse的な感じで話せばいいんでしょ?
武田 さすがれーくん! そう、あんな感じでラフでいいのよ。
中田 でももうClubhouseもかなり過疎ってますよね。インターネット老人会としてブームがはじまって、そっから徐々にカルチャークラスタまで落ちていったけど、そのあたりで一気に芸能人が参入でテレビでも話題になってどかーん。
吉本 わたし、まだClubhouseやってない……。
中田 どかーんのあと急に失速して。芸能の人らが使ううま味、現状ないもんね。だから今や「◯万人フォロワーに聞いてみた」とか、ミョーな自己啓発と情報商材やみたいな連中のソークツだよ。若い子がかっこよく使うプラットフォームじゃないっていうか。
吉本 わたし、まだClubhouse……。
武田 カオルちゃん、まだやってないってよ。
中田 まじ? やってみたいならインビ送るよ、電話番号教えて。
吉本 あ、電話番号いるんですね。じゃあいいです、礼さんに教えるの抵抗あるんで(キッパリ)。
武田 めちゃくちゃきれいにふられてる!
中田 あちゃー、まあいいっすよ。じゃあ本題に戻して、カオルちゃんはなんか先週ぐっときたものは?
吉本 なんかあるかなあ。あ、そうだ。今まで読んでなくて、同姓なのもあって吉本ばなな読み始めました。まずは『キッチン』から。
中田 え、なんで今さら?
吉本 武田さんの授業の課題で、出たんですよ。好きな作品をレビューしなさいっていうの。それで知らない女の子が『キッチン』のレビュー書いてて、それがなんかよくって。
武田 あれはいいレビューだったよねえ。
吉本 ふーん。じゃあ武田先生、そのレビューどこがよかったんですか?
武田 そうね。決してバランスがいいわけではなかったんだけど、小説の本懐みたいなところに着目できてたのよね。
中田 ほうほう。
武田 書いた子は、主人公・みかげの視点に注目するのよ。彼女が愛しているキッチンや、ひょんなことから暮らしをともにすることになった田辺家の様子について。そしてこう記していた

「心地良いソファのことだとか、窓から見える景色だとか、私が普通に暮らしていたら特に気にかけないだろうことをみかげはとても大切にしているように見えた」

もうね、このセンテンスだけでぼくはいい評価をつけたくなってしまったよ。

吉本 ここ、めちゃいいですよね! わたしもこんなふうにレビュー書けたらよかったな、って思いました。
武田 ねー、「大切にしているように見えた」って、もう見えてるんだよね。これが小説の本懐。
中田 なるほどな。悪くないっすね。『キッチン』なにげに読んでないから、読んでみようかな。
吉本 (さっき今さら、って言ってなかったっけ……?)
武田 れーくんは何かいいものあった?
中田 あれ読んでますよ、「Quartz」。武田さんにおすすめされて購読してみたけど、朝夕にニュースレターが届く生活結構捗りますね。
吉本 なんか意識高い大人が読むやつ?
中田 まあそうね。でもさ、今ニュースアプリもコンプレックス広告が目立って、正直げんなりするじゃん? まあそういうターゲティング広告、ある種俺も加担してる立場だからあんま言えないけど、WEB上の無料で読めるコンテンツの質の低下が止まらないなーって印象。
武田 一部有料化したり、有料の兄弟メディア立ち上げるところも増えてきたよね。
吉本 そーなんだ。
中田 そこでニュースレター。これはいいですよ。朝刊と夕刊が自分のインボックスに届く感じ。
武田 古くて新しい、よね。阿久津さんの『読書の日記』は週刊誌って感じ。
中田 あとはpodcastかなー。でもこれ最近かなり各社手を出し始めてて、ちょっと収拾つかねーなって気がしますね。なにをKPIにするか、みんな迷ってそう。ってこれ、なんかマジメすぎません?
武田 ぼくはいいけど、どうかな?
吉本 わたしもいいけど、どうだろ?
中田 なんでみんな矢沢構文で話してんすか(笑)。
吉本 矢沢構文ってなんですか?
武田 それはね、かつて矢沢永吉がね──。
中田 あーもう、古い話はもういいですよ! 武田さん、これまとめにくいんで次回話すテーマ決めてくださいね。
武田 うう、なんとかまとまるよう考える!