武田俊

2021.4.21

空中日記 #46|「きれいな犬、あっちにいきな……!」

せっかくたくさん撮っているんだから、本文にも写真を入れたいと思う。
でもその日ごとに分けて入れるのもめんどうだし、しっかりセレクトもしたくない。
なので毎回最後にばーって並べることにしてみる。

4月12日(月)

アオイくんと君島大空さんの対談記事読む。媒体はQetic。フィルムとおぼしき撮影カットもよい。最近WEBメディアでフィルム使うところ、増えてきた。とても素晴らしい対談。アオイくんも君島さんもぼくの中で「言葉の人」というカテゴリに振り分けられていたのだけど、それが鮮やかに証明されたような気がする対話だった。

オンプラ。今日からメッセージテーマに即した本をセレクトして持っていくことにする。テーマは「これで優勝!」ということで、『七帝柔道記』をセレクト。
ゲストはPanorama Panama Townのお三方。70年代のアメリカ映画がお好きらしく、テンションが上がる。ゲームの話も少々。Apexを今プレイしてるらしく、ぼくはロンチ時に少しやったけど触ってないと話す。最近とても盛り上がっていると方面から聞くので、久々にちょっとプレイしたくなった。

今日のプレイリストは「オルタナ!」完全にゲストに影響されている。押くんとカラオケのような気持ちで「なつかしー!!」「あのバンド、なんだっけ…。Cからはじまる、あれ…」みたいにしてたら、合計で5時間超のものができあがって、ふたりで笑う。

 

4月13日(火)

空中日記をアップ。これで現実に追いついた。
noteでひどい記事を読む。西成の新今宮で起こったあるできごとを記した「エモいエッセイ」なのだが、書き手が書くことの暴力性に無自覚で、格差を無邪気にドラマとして消費するようなシロモノ。それだけならまだしも、当初無表記でのPR記事だったということで、大炎上していた。げんなり。この日記がアップされるころには、もう話題にもなっていないのだろうな。

15時。某社に新しい形での仕事のパッケージプランを提案。
簡単にまとめてしまうと(そして簡単にまとめるととても誤解を生みやすいが)、継続的に編集者として企業の情報管理に関わっていくためのパッケージとソリューションを考案中で、それをまずトライアルでやってみないかというもの。

企業が情報を、自社のストーリーをどう届けうるか、という課題に対して用いられたのが古くは広報誌であり、それがオウンドメディアとなっていたわけだけど、この数年多くが撤退。KPIをPVという定規以外で測ることができなかった、というのがその多くの撤退理由なのだけど、しかし企業である以上、自分たちのメッセージが何かしらの手段で届けていくほかないので、迷っている、という話はここそこから聞こえてくる。

ここに関しての個人的な意見は、明確で「企業である以上、独自の企業文化は育てなければ存在理由を失ってしまう。しかし文化は短期で醸成不可能。ならば中長期を前提としたプランと、それに応じてKPIを独自に設定すべき」というもの。どんなトライができるか楽しみ。

並行してM.E.A.R.L.での記事編集。時間をかけエディットし、時間をかけ写真をセレクトする。加工するために自分が必要だと思う時間は、捻出すべきで、それがしにくい仕事は受けないししない。これ今一度徹底しないとダメだ。効率の手前に、質量があるということ。

 

4月14日(水)

じゅんこ、声明を発表。この1ヶ月苦しみながら考えていたのを横で見ていたからか、自分もこの出来事についてかなり緊張感を持って思考していたことに改めて気づく。彼女が「作家」とはなんであるか、という根源的な問いに辿り着けたのは、とても大きいなあと思う。いい文章。

途中まで進めて放置していた確定申告進める。手を動かせば確実に進む作業は、ノれば気持ちがいいのだけど、スタートするまでの精神的なコストがなんでこんなに髙いのか!
ウツに近い状態だったのがかなり進められてハイになる。

くたびれ果てたじゅんこに踊りながら「ぼくは経理ができるんだぞー!」とすり寄ると、一瞥をくれたあと「きれいな犬、あっちにいきな……!」と言われる。半分寝ぼけていたらしい。一拍おいて二人で大爆笑。なんなんだよ、きれいな犬って!
寝室にいってもしばらくずっと爆笑しあう。

4月15日(木)

朝9時半からMTG。信頼できるパイセン・仲間との仕事の話は、生きているって実感のできるいい時間(踏んだ)。そのあとずっと確定申告。なんでギリギリにならないとできないんだ、と怒り。あとUFJのネットバンキングシステムは最悪。なんで過去の明細確認するのに、申請して1営業日かかるんだよ。絶対に今期この借りは返してやる、と決める。

確定申告の作業を行って、なにか気づいたらしい。

4月16日(金)

ザッピング的情報収集。最近はRSSリーダを再活用していて、できるだSNSとニュースアプリを見ない。というか、ニュースアプリはもうまず見ないことにしていて、このRSSで記事を読むのが楽しくなってきている。枯れた技術の水平思考。

で、偶然流れてきた切腹ピストルズのライブ映像を見てぼろぼろ泣いてしまう。

明治維新への批判、農村歌舞伎の舞台、「しぶとき海賊のなごり」という口上の追加。海の民、漂流民、河原者、傾奇者、悪人、宮本常一、網野善彦。そういうものが芋づる式に連想されて、何度も何度も見ながら泣いてしまう。

そのあと、舐達磨逮捕の知らせを得る。発表されてまもなかったから、取り急ぎ晴矢くんにLINE。業務中だったようで、びっくりしていた。「バダサイだけまた残っているの、なんて業なんだ」といっていた。

夕方、1年ぶりの対面授業のため市ヶ谷へ。外堀沿いの遊歩道を歩くと、どれだけ建物やテナントが変わっていても一瞬で2005年の入学時に最初に歩いた時の記憶にアクセスできる。新見は逮捕ニュースで落ち込んでいた。今期の生徒は25名、グループワークをやるにもちょうどいい人数だなと思うも、今回指定された教室に生徒用のPCがなくて焦る。当意即妙でなんとかワークタイムを乗り切るが、これなんとかしないとまずいな。

新見とご飯でも食べて帰りたかったが、打ち合わせがあるので断念。
しかし久々の対面授業はめちゃくちゃに疲れた。現実は解像度が高くて、リモートでのそれとは使う認知の領域がまったく異なる。思えば去年、リモートでの授業をしはじめたときは、同じように異なる疲れを感じていた気がする。
リモート授業での疲れは脳だけが高速回転していて、終わったあと躁転しそうな、寝つけなくなるような疲れ。これはラジオの疲れと似ている。
対面授業は逆で、体も等しく疲れるのか、終わったあとすぐ眠ってしまいたくなるような類のもの。子どもの時のプールの帰り道みたいな。

21時、本のMTG。書き下ろしはしんどいため、連載をしよう。さて、じゃあどんな形で? という議論が具体的になされた。脳みそを複数並列につなぎあわせると、やっぱり想像していなかったアイディアが生まれ、そこからまた次のアイディアが──と展開していくのはとっても楽しい。やる気に満ちあふれてくる。

寝る前、『七帝柔道記』

4月17日(土)

じゅんことMTG。楽しみな展開をどうつくるか。そのあとNotionを整理。もっとクリティカルに使えるようにメンテナンスをしてあげると、グローブを磨いている時のような愛着を感じる。

午後執筆。これまで書いていた分の中から、プロローグ部分から推敲に入る。制作・創作が楽しいものだということを、おそらく生まれてはじめて感じはじめている。これまでもそういったことはしていたけれど、そこには色んな思いがぐちゃぐちゃに入り込んで楽しめていなかった気がする。「これを読む人にこんな気持ちをさせたい」「◯◯みたいなテイストを入れたい」そういう相対的な思いでものづくりをすると、どこか本質的なものが抜け落ちる。

一番重要なのは、自分のこころや体が、その創作のプロセスによってどんな反応をするのか、確認しながら進めることなんだろう。これはよくある「何より自分のために創作を行うべし」とか「狂気をを鎮めるために」というものともちょっと違う気がする。
よろこびであれ悲しみであれ、それを記述する時の自分の様子を、観察しながら進めること。
こういうことができるようになったのは、多分に柔術の影響だと思う。

夕方、買い物にでかけるときれいな黒いさきと目があってサルベージする。
ムニエルが食べたい、というじゅんこのリクエストに従って調理するも、皮目に包丁を入れ忘れる、という痛恨のミスにより、きれいないさきはまるまるに縮まってしまった。泣きそう。でも、インプロでつくった、まっきっきの柑橘・はるかを使ったバターソース(ハーブ類を切らしていたので、春菊の葉を使ってみた)は大成功! 計量してつくってないので再現性に乏しいけれど、また出会いたい味。自炊は、また出会いたいなって味を生み出せるのが楽しいから、しっかりレシピ通りつくらないのが好き。出会えなくてもかまわない。人生はつづく。

寝る前、『横道世之介』

4月18日(日)

35歳の誕生日。じゅんこと付き合ってから、彼女が先に誕生日を迎えて新しい年齢の感覚を得るわけで、その時におなじようなものを受け取っているらしく、特に感慨なし。

パンだけ食べて、柔術スパー。確定申告で行けてなかったので、今週はこれが初。
やっぱり週2は行かないと、感覚が薄れてしまうな。それでも柔術の体力は着実についてきて、6本スパーを行うことができた。初回は2本やるだけで吐きそうだったのが、うそのよう。力の抜きどころがわかってきた。

数名、MMAクラスのガチめの方たちがいて、ぼくはゆっくりやりたい技術を確認したかったからスパーの相手として考えに入れていなかったのだけど、そのうちのお一方から「次いいですか」とオファーされ、断るのも変だから「おけっす!」という。組み合うと、圧倒的にフィジカルで凌駕されているのがすぐわかったから(というか組む前からある程度わかっていたけど)、普段道着を着慣れていないかれらが対応しにくそうな技術を……と思い、習ったばかりのクローズドガードからアンダーフックで足を取るスイープを繰り出すも、あとちょっとでというところで投げきれず。

そのあとはデラヒーバやKガードからの展開を狙うも、ものすごい筋力で膝を押さえつけられパスされそうになる。片足は乗り越えられても、なんとかハーフでしのいで、両手をクラッチして相手の重心を揺さぶりながら、一瞬、ほんのわずかなチャンスを狙ってブリッジしレスリングのように反転させる。いつものスパーならこれで返せるのだけど、やはりフィジカルなのか、ぎりぎりのところで相手も踏ん張ってくる。すごい。そこから怒涛の反撃がやってくる。なんとか時間をかけながら状況を変えようとするも、劣勢の体制を維持するだけでどんどん上腕の筋力が削られていき、ノースサウスのような体制にまで持っていかれてしまう。十字絞めでも取られてしまった。

ま、仕方ないと思いつつも、終わったあとは悔しいし、でも楽しい。荒い息を整えていると「強いですね!柔術どれくらいやられてるんですか?」とたずねられ、昨年末入ったばかりなんですというと「ええ、まじっすか」と目を丸くして驚かれた。そのリアクションが、うれしくてうれしくて、謙遜しながら「フィジカルめちゃくちゃお強いですね!」とこたえ、MMAではどんな感じなのかとか、もともとグラップリング系の格闘技はやられてたのか、とかインタビューしてしまう。

家に帰ってからもずっとうれしい。真っ白な白帯で、はじめて4ヶ月とかで、目を丸くして「強いですね!」と言ってもらえたことが、こんなにもうれしい。これを書いている今も、思い出すというよりも、そのうれしさがまだまだ残っているから、いつまでも溶けない飴をなめているみたいに優しく甘い。ずっとあこがれていた格闘技を、やらずしても観てきたことの何かが、報われているような気持ち。

帰宅、シャワー、プロテイン。
しゃけ小島に行こうとじゅんこと散歩したら、14時LOとのことで断念。かわりに行ってみたかったお蕎麦屋さんへ。いつもの蒼凛よりも価格が高く、天せいろが2100円ほど。出てくるまで、前田愛『都市空間の中の文学』。来週のシンポジウムが楽しみ。

お蕎麦はどんなものかと思っていたら、これがすばらしかった。香り高く、表面はつややかで、噛むとたしかな弾力がある。少しずつ前歯に加重をかけていくと、閾値に達する瞬間に、ぷつんと弾けた。わさびも今その場で擦ったことのわかる、水分量が多く瑞々しい。そして甘い。おそばはおつゆで食べるけど、思わず通の人がやる塩でいただく、ということをはじめて自然な素振りで行い、楽しめた。

帰宅、執筆。昨日推敲したプロローグ。一晩寝かせたらやはりもう少し手直ししたくなって、作業。そして送稿。いい調子。これで明日から本編の推敲にはいることができる。

Notionに作業ログというページをつくり、さくっとその作業で感じたことをメモしてみた。これ、積み重なったらおもしろいログになりそう。

・縦書きのまま、とりあえず数字表記や縦中横のことはおいておいて、内沼さん、ごとうさんに送稿した。
・作業するまではこわいんだけど、やり始めると推敲する作業はサンダーをかける感じでたのしい。
・どれくらいなめらかにするか、どれくらいローファイなままにするかの選択難しい。
・編集という仕事の手癖だろう。「だった」が文末で続くと気になってしまう。けれど、小説を開いてみれば「だった」終わりは当然多いわけで、読むと書くときでは文末への意識がだいぶ変わってることがわかる。
・なるべく自分のテキストを「編集」しすぎないことが、重要な気もしてくる。