武田俊

2021.12.4

歩きながら話そうか

11月22日(月)

引っ越しのなにが苦手って、荷物を詰めれば詰めるほど生活空間がぶっこわれて、混沌とした空間に変わってしまうところなんだと思う。だから荷解きをして、元の状態に戻していくことは比較的苦手じゃないってことがわかった。カオスからコスモスへ。なんとか作業できる環境を整える。

新規案件の相談を受ける。
相手がどうオーダーしていいのか定まっていない様子を見たら、頭がぎゅいんとして先回りし、要件定義から提案、予算の調整までを音速でべらべらしゃべる。こういうの、いつからうまくできるようになったんだろうな。

夜、butajiさんのライブにゆく。もうさいっこう。声を出してはいけないのがもどかしく、心のなかで叫びながらステップを踏む。

あんどうさん、おさえくんとブラジルのバー。ヤシの新芽のサラダとイチボとブラジルのソーセージをたまねぎと炒めたのをいただく。美味。とくにソーセージのやつ。

 

マテハイがさらさらと飲めて危ない。途中からbutajiさんも来てくれて、念願のおしゃべり。みんなでケラケラ笑ってライブの話をしたあと、なぜかインスタント焼きそばについて語る。あんどうさんはヤキソバン世代。butajiさんの推しは「俺の塩」のたらこフレイバー。1分でできるところも、いいらしい。

タクシーでオンプラ。ゲストはsalan。金曜のライブが楽しみだ。
新居に電車で帰る。まだ日が上らない暗い中、なれない道を歩いてくのはたのしい。

11月24日(水)

新居は3つの駅の中間にあって、どこにも徒歩10分ほどでいける。
お昼は使ってない側の駅を探索。昨日ぼくだけ歩いたので、じゅんこさんを案内する。
パティスリーがあったので入ると、チーズに!ねずみが乗ってる!っていうチーズケーキがあって、モンブランを買うつもりだったのに心を盛大に奪われて買う。
見た目だけのものでもいい、と思ったら存外においしくって、やられた。ずるい。

夜、柔術前に旧宅に寄ってふたりでベッドや粗大ごみを外に出した。
一緒に住む前に使っていたマットレスに、シングルのマットレスをつけたして実質クイーンサイズ、みたくしていたやつだ。ふたりで運んで、そのあとラグも出して、路上に置く。

「最後にベッドにありがとうね、って言っておわかれしよ」と提案して「ありがとう」と言いながらぽんぽん叩くと、ふたりともびっくりするくらい物悲しくなってしまい、泣く。ほんとうに色々なことがあって、それは大半ぼくの病やら特性による事件たちで、おもえばこの家に引っ越してきた瞬間右上腕骨をまっぷっつに折り、そのあと顔面3箇所を折るという意味のわかんない展開からスタートしたのだった。それでも死なずに、しかも一緒にここまで来れた。ほんとうにありがとうだ。

柔術、伸び悩みなので、じっくりと技術を確認しながらすすめるつもりが、フリースパーがはじまるとどうしても雑になる。引き続き課題。

柔術から電車で帰るのははじめて。
butajiさんのアルバムをかけ、氷室冴子をひらく。車窓から見える光がきれいで、窓に顔を寄せるとちょうど多摩川を横断するところで、それだけでドラマチックな気持ちになる。空がひらけていって、そうだ、ぼくはこうやって移動しながら音楽と本に触れて、その移動の運動ごと感動して育ってきたのだった、と思い出す。

11月25日(木)

mtg3本入れてしまう。
「ダメ!マチネとソワレだよ」
と言い聞かせる(自分に)。
最近、なにかあると実際に声に出して自分に言い聞かせるようになっていて、それがけっこういい感じである。

 

11月26日(金)

法政の授業、ゲスト回が急遽ゲストの方の体調不良でリスケとなる。
さて、どうしよう。
ご連絡いただいたのが1610分、リスケとしたのが16時20分。ちょうど市ヶ谷駅についた新見と落合うタイミングで、自然と「歩きながら話そうか」というフレーズが出てきた。

これはluteの立ち上げ期に頻発されていたフレーズで、1日にmtgやら会食やらで6本とか平気で打ち合わせていて、仲間内で細かな確認事項を照らし合わせる時間なんてなくて、ぼくらいつも「歩きながら話そう」「エレベーターで話そう」「じゃあタクシーひろって道中話しましょう」なんてことばかりしていた。

端的に時間の使い方が下手なんだけど、それでも振り返ったら咄嗟に拾ったタクシーの運転手さんがハードな音楽好きだったり、六本木をくるくる歩くときの足取りの合わせ方、あの人のエアフォースワン、ふるめんのラーメンに浮かぶ鞠麩、泉ガーデンの緑のガラスを抜ける光、エレベーターの中で広がったPAULのアンシェン・ミックスのハムとチーズと小麦の香り、そういうのがただきらきらとだけ思い出される。死にそうだった日々なのに、記憶はずるいよなー。

夜、salanの初ライブ。久々の下北の金曜感。
トラブルピーチからの新台北の流れに涙ぐむ。

11月27日(土)

エネルギー切れ、終日仰臥。
ぼくみたいな人をイントロバートというらしいと教わる。

11月28日(日)

柔術スパー。じゅんこさんそのタイミングで旧宅の引き払いしてくれる。今の部屋で寝て起きて1週間、メランコリーに襲われていない。これはすごいこと。都市の機能、自然と空の広さ、道幅と人口密度、町の帯びる品のよさの影響みたい。全然本、読めてない。