武田俊

2022.6.11

空中日記 #76

6月10日(金)

灰色の朝。もう勘弁だよと思いながらじっとしていた。時間の流れがゆるやかで、だからもっと早まってほしい。午後、大学の講義はリモートで対応させたもらうことにして、時間になってzoomをつける。自分の目が完全にウツ状態のそれで笑った。目を見開こうとしないと、うすく三日月のような形になっていて、その中がどんよりとした鈍色をしている。ふだんの目は、もっときらきらとしていて、調子がいいとその輝きはなかなかのもののようで、「なんでそんなきらきらしてるの?」と一緒にいる人が楽しそうにほめてくれた。そういうことはもうこの人生でないように思えてしまう。のは、実は一時のことで、けれど毎回個別具体的な苦しみがある。それでも講義がはじまってしまえば、ぼくは出来てしまう。出来てしまうことが少々の救いにはなるけれど、反動でどっと疲れる。カウチに横になって常時付けているスマートウォッチを見てみると、心拍が120だと伝えられた。やっぱりね。そして謎の空腹。昼間から今日はそうで、でもウーバーをし続けるとそのゴミの量にげんなりしてしまうから、あるものでなんとかつくった。昼はチャーハン、夜はZENBヌードルをつかったラーメンにキャベツときのことにんじんとベーコンを炒めたものを乗せた。

横道誠『イスタンブールで青に溺れる』の続き。横道さんの旅はエジプトまでにさしかかった。いつもの読書より時間がかかっているのは、おそらく旅のエピソードの間に挟まれる当事者研究的なパートに、深く共感する部分があるからだろう。ただ「あるある!」と思う興奮もあれば、自分には覚えのない感覚なのに深く共鳴するパートもある。シンパシーとエンパシーがジャブ、ストレート、という風に小気味良いワンツーのように打ち込まれていって、ぼくは知らない出かけたこともない国の町の通りで、ぼくなりの青の中に溺れているようだ。