12月19日(月)

午前に空中日記をアップ。これ始めてもう4年以上になると思うけれど、まったくの空きなく1週間続いたの先週が初なんじゃないか。これはもう、ポメラの恩恵といわざるを得ない。それだけ、書くしかないという効能の高さを感じてる。

昼、最寄り駅のひとつのそばにある、個人経営の立ち食いそば屋さんに行ってみる。ずっと気になっていたけど、引っ越して1年なぜか立ち寄れずにいた。券売機できつねそば380円と生卵60円のきっぷを買い、待つ。おばさんみたいなおじさんがひとりでやっていて、店内には肉体労働のおじさんがふたり。すぐにやってきたおそばがおいしい。あたたかいそばにしたのだけど、しっかりと角が立っていて、お出しも化学調味料の味がそこまで強くなく、ちゃんと人間がつくった味がする。

なによりよかったのは小口切りのねぎが若干不揃いだったこと。不揃いだと、歯触りにバリエーションが生まれる。サクッとしたところと、シャキっとしたところ。そして断面から少しだけゲル状の水分を感じる。きれいに数ミリごとに切り揃えられ「製品」になってしまった青ネギは、あらかじめ水その他にさらされてパキッとさせられてしまっているから、ネギのネギらしい香りをまとった水分はけっして出てこない。輪郭の際だった均一なネギの浮かぶそばは、なんだか工業製品っぽくて、そうでない立ち食いそばを久々に食べられた気がする。これは、たぶん、あの東池袋駅前にあった六花そば以来の感じ。そして今調べたら六花そばは、かちどき製粉という製粉所の直営店だったようだ。そうだったのか。通りで、ふにゃふにゃじゃない、ちゃんとしたおそばの麺だったわけだ。そのお店で、歩くだけで汗がしたたり落ちるような夏の日に、冷やしたぬきそばを食べることだけが生活の中のすべての救いでよろこびだった日があった。2011年~2014年の4回分の夏、たしかにぼくはあの冷やしたぬきそばに救われていた。

そこから八王子の巨大なキャスティングへ。ずっと悩んで買えていなかった、4000番のリールを今日こそ買おうと思う。ダイワのルビアスってやつにすでに決めていて、何ならAmazonですでに一回注文したものの、回してみたらシャリ感が強くて返品したのだった。Amazonにはたぶん、よくない個体がたくさんの返品のループの中で回っている。で、キャスティングで回してみたら、やっぱり全然シャリシャリいわないのだった。27日の釣りに向けて、40~60グラムのメタルジグもわさっと買う。年末のセールをやっていて、安く買えた。とても満足。

道中といつものカフェに戻ってから、「ユリイカ」三宅唱特集を読む。蓮實さんが三宅さんのこと好きすぎて、読んでるだけで笑っちゃう対談がむちゃおもしろい。そして、こういう映画についての語りかたを、久々に味わった気がする。大学生のとき、背伸びして「映画芸術」を読んだりしていたときの、あの怖いけど楽しい感じ。ある見方を獲得しなければ、その作品の本質的な価値などわかるわけない、という態度は自閉しているように見えて、実はそこから深く広がっていくのだ、ってことが学生の時になんとなく感じられたのが今になってみるととてもよかったと思う。

12月21日(水)

午前に「読むラジオ」の配信。1週間あっというまだけど、そのあっというまの間に、みんなに伝えたいこと、おすすめしたい作品なんていうのが本当に尽きることなくあって、でも書き切る時間はなくて、だから毎回途中で送ってしまっているような感じがする。どういうわけかぼくにはすべてを書き残したいって欲望があるようだけど、それはてんで無理な話だ。締め切りがあるから、原稿を終えられるというのと似ているのかもしれない。死ぬことが決まっているから、生が輝く、という話にも似ているかもと思ったけど、これは書いててすぐ違うとわかった。

夜、お出かけだから昼は買い置きのたんぱく質がブーストされたカップヌードルですませたけど、約束がキャンセルになった。とたん、お腹が空いた。じゅんちゃんは遅いとうし、もうウーバーしちゃおうかと思ったけど、とりあえずお湯をわかした。お湯さえわけば後は手が動くというもので、にぼしの頭とわたをとって出汁をとって、そのあいだにたまねぎ、ねぎ、まいたけ、大根を切りととのえ、豚汁をこしらえた。おかずは……もういいや、と思って冷凍の餃子を焼く。最近使ったことなかったから驚いた。油もしかずただ並べてふたをして中火で5分、そのあと蓋をあけてすこし火を通せば、こんがりとして羽までできちゃうって仕組みになっていた。すごすぎる。しかもちゃんとおいしい。

夜、明日見に行くレガシィの動画みる。中古車を選ぶときのチェックポイントを、くるまにTVさんっておじさんが教えてくれる。めっちゃていねいでわかりやすい。はじめて車を買うために車やさんに行く。と思うと、興奮と不安が一緒にやってきてくらくらする。ふと、車をぼくが買ったら、たとえばあさとくんと来シーズン渓流に釣りに行くとき、どうするんだろうと思った。それぞれにそれぞれの車で、現地集合するんだろうか。利便性的に、たぶんそうするんだろう。となると、一緒にふたりで車中で、いろんな話をしながら走らせて、最初は少しまだ眠かったのが、釣り場に近づくたびにわくわくした気持ちが芽吹いていくあの感じ、あるいは帰路、どっかでソフトクリーム食べよう、なんて提案の会話も、これからはなくなっちゃうんだろうか。さびしい。さびしいと同時に、当たり前のようにあって楽しいことが、ふいにちょっとしたことで慣習から抜け落ちていくっていつでもあって、だから楽しいときに、好きだと思うときに、すぐにそれを伝えなきゃなんない。書かなきゃなんない。

「読むラジオ」で『ケイコ 目を澄ませて』のことを書いて、本文に埋め込むために予告を検索してそれを観て、あの日の感動のことをまた思い出す。じんわりと熱いものが体を包む。それでもうひとつの動画を観たら、岸井ゆきのさんがボクシングのトレーニングをしている様子が映し出されて、パンチを受けているのが三宅さんだった。昨日『
ユリイカ』の特集で読んだ光景を観た。ボクシング経験のない三宅さんが、ややぎこちない構えで岸井さんのボディをガードする様子を見て、また泣けてきた。この人の人との向き合い方が、ほんとうに好きだ。前から好きだったそれが、もっとさらに上昇して、好きだと思うときにそれを伝えなきゃなんないから、伝えてなかった感想をしたためてメッセージで送った。感想のあいだに、たくさんの好きな気持ちを、あなたを好きで心から尊敬しているという生まれたての気持ちを、隠さないでなんとか散りばめるというのがぼくのできる精一杯のようだった。

そんな話を、さくらさんとインスタのメッセージでやりとりした。

12月22日(木)

9時に出発して、1日中古車を探し。自動車を買うために車屋さんに行くというのははじめてで、たくさんの発見がある。書き切れないし、往復と道中で合計6時間くらい運転し認知資源をフル活用したので帰宅するとへとへとに。認知資源のオーバーキル、という感じ。

 

12月23日(金)

樋口毅弘さんの新作『中野正彦の昭和九十二年』の出版差し止め、というか回収騒動についてずっと考えていた。担当編集は知り合いで、それもあって楽しみにしていたものの、社内の別の編集者が社内事情や直接のLINEでのやりとりを公開したことによって、自主回収が決まってしまったのだけど、作品を読めていないからなんとも言いがたい。昨日くらいから献本などで手にした人の感想がアップされはじめたが、目にした限り「たしかに過激な描写が多いが、むしろ差別を助長するのではなく、その反対の作品では?」「これを版元が自主的に回収するのは、読者の読みを軽視していると思わざるを得ない」という意見ばかりだった。

古谷田奈月『フィールダー』の続き読む。現代的なイシューが、巧妙に絡み合って、正義、倫理、組織、社会的弱者といったものへの人物ごとの向き合い方が浮き彫りになっていく様がとても巧みだしおもしろい。テーマの見せ方と、ドラマのドライブのさせ方のバランスがいい気がする。

午後、今年最後の授業。久々にゲストなしの回で、学生たちも緊張の糸が解けているのかなごやかな雰囲気。HIMIくんの『last Chiristmas」のカバーをかけながら話す。新見と一緒に授業できるのもあと2回かと思うと、さびしさがある。終わりが近づくときにぼくの心はいつも鋭敏になって、喪失は毎回個別にあたらしい喪失だ。しかし、今日は口がまわる。めちゃくちゃたくさんしゃべる。それでも脳の回転速度に口が追いつけていないもどかさがある。少し心配になって新見に「今日、ぼくめっちゃしゃべるよね。キモくない?大丈夫?」と聞くと「んー、なんかめっちゃしゃべるなあとは思った(笑)」とのこと。それくらいなら大丈夫かな。やや軽躁の入っているのかもしれない。

授業後、富士見ゲート1回のラウンジでごとうさんと「青の輪郭」MTG。「じつは1週間くらい新しい章の書き出しでつまずいてて……」と告白し、それがなんでなんだろうってひとりで話はじめる。書籍になるときの最初の章だから、エピグラフを立てられていないから、なんて原因を特定させはじめようとすると、自然に第一行目のフレーズがこぼれだして「あ、なんか今、出てきた!」といいながら、2,3行その場で書き出した。これ、いけそう。ナラティブによって力みがとれたのか、なんなのか。パロールとエクリチュールの関係について、もはやあまり残っていない記憶を振り絞りながら考えつつ、そのあともMTGを進めた。

12月24日(土)

ワーゲンに出かけて、クロスポロの試乗をする。1.2リッターの小さなエンジンを、ターボで回して7速のミッション、という車でこれがおもしろかった。ステアリングもアクセルもブレーキも重めで、それが好き。日本の車、ステアリングが軽すぎる感じがする。現地まではカーシェアのノートで行ったけど、(そしてこの車はとてもよくできているけど)低中速はほとんどモーターで動いているから、エンジンの鼓動が無だし、なんだか乗せてもらっているという感じ。クロスポロは自分で動かしてる感じがする。よく車好きの人が「生きものみたい」とか「乗ってて楽しい」と表現する感覚が少しわかった気がした。

途中みつけたログハウスのイタリアンで、セイコガニのクリームパスタ。ドルチェのセットにしたのでもはやこのランチがイブのディナーみたいな気持ちになり、夜はお寿司買ってきてそれとした。仕込む覚悟もないまま当日になって、おいしくもないチキンを一応という感じで買ってきたりしてたけど、このくらいのイブがいいのかもしれない。

12月25日(日)

特別なことをとくにしないまま、おわる。