7月24日(月)
朝、じゅんちゃんを多摩美に送っていくことにする。送っていきたかったのは、車中で坂口さんと千葉さんのおとといのTwitterスペースの続きを、一緒に聞きたかったから。ふたりで聞くことで、もっと広がりがもてそうなのと、これを一番うまく聞けるシチュエーションは運転中だと思ったのだ。
こんなふうに、予定しないまましゃべっていくことで、こんなにも広がりが持てる。これをぼくはやるべきだ。何かをゼロイチでつくることに構えないで、ただ出て広がっていく思念や風景や風景ならざるものを、記録係として吟味も選別もしないでただただ書いていく。そこからはじめるようにして、執筆も語りも。立ち位置や認知特性はじゅんちゃんが千葉さんに、ぼくが坂口さんに似ているように思うけれど、感覚や語りはじゅんちゃんが坂口さんに、ぼくが千葉さんに似ている。千葉さんは察して変換して広げる力が高くて、これはいいインタビュアーに大切なスキルで千葉さんはぜんぶ持っている。
途中で坂口さんが、唐突に前回の鬱のときに書いたテキストを朗読して、ハンドルを握りながらぼろぼろと泣いてしまう。空洞のこころが共振して、共鳴していくようだ。
もっと予定なく、いろんなものをつくればいい。パッケージは大事だけど、それを先に考えすぎるのが悪いくせだからやめればいい。podacastとして番組を形にする前に、じゅんちゃんとスペースをやればいい。
帰路、スタバにはいる。頭の中がふたりの会話のまんまなので、AirPodsをつけて続きを聞きながらpomeraで日記をつけている。pomeraとMac、車なら苦労せず一緒に持ち歩けるから、このスタイルはいいかもしれない。ただ書き出すためのpomeraと、「仕事」をするためのMac。アイスアメリカーノ、グランデ。
帰宅してMTG3発やりながら、あいまにソファでディクテーションを試してみる。ハードなMTGたちだった。ほんとうに疲れた。そう思いながら、ソファに寝転がって、目を閉じて音声入力を進めていく。iPhoneからGoogle docsを立ち上げて。ぼくは早口なのか、それとも誰でもそうなのか、わずか5分で3500字くらいの草稿ができあがる。え、まじで。しかもそれなりに精度高いから、ちょっといじったら簡単なエッセイくらいにはできそうだ。そうか、ニュースレターこれで書いちゃえばいいのでは? ってか「武田俊の読むラジオ」って名前をつけたのって、そもそもこのスタイルでやりたかったからじゃん。と、いろいろ思い出しほくほくする。そのまま6000字くらい「書いた」。
坂口さんのスペースを聞く。同じ箇所を聞く。おんなじ鬱期のテキストの朗読で、また泣く。これはたぶん、何回聞いても泣いてしまうやつなのだろう。ごとうさんとたかくらに、これ聞いて! とLINEする。心をこめてLINEをする。
ディクテーションで6000字、エッセイの執筆で3000字、日記で2000字くらい書いたので、累計で11000字生産したことになる。原稿用紙30枚ほど。これはなかなかいいぞ。夜、千葉雅也『エレクトリック』をひらくも、すぐに眠ろうとする。布団に入ったのは21時すぎ。
7月25日(火)
柔術、スパーリングでけがをしてしまう。雑に引き込みに行ったらあっといまにパスされて、マウントまで上がられる。相手がマウントから三角に入ろうとしたのを防いだら、十字をセットアップされるも両手でしっかりクラッチを組めていたので、ここで一息入れる。も、頭がカーっとなって、順序立ててエスケープする術を組み立てられず、フルパワーでブリッジをしてみようと思ってしまう。それで左肩を支点にひっくり返そうとしたら、ぐりっというか、ぬるっというか、そんな感覚が走って、左肩に力が入らなくなった。
相手もその異様な感触にすぐ技を解いてくれ、起き上がると、ぱきん、と関節が鳴った。どうやら一瞬外れかけた肩関節が、勢いで元に戻ったよう。初めてのことでわからないけれど、亜脱臼ってやつな気がする。痛みがないのでスパーを続けちゃおうかと一瞬思うも、休むことにする。ずっと恐縮してしまっている相手が気の毒で、「自損事故みたいなものだから、全然気にしないでくださいね」って何度もいう。
帰宅しても痛みはあまりなく、でもなんかぐらぐらして気持ち悪い。LINEで師匠に相談。まずなんでもブリッジで返そうと思わないこと、そして、ぼくのくせとしてディフェンスもパスもなんでもワンアクションですませようとするクセを指摘される。もう1年近く一緒に柔術してないのに、まるで横から見ていたかのような指摘で、ああ、ちゃんと見てもらえてたんだなあといううれしさと、進歩のない自分にはずかしく思う気持ちがないまぜになって、最終的に恥ずかしさが勝つ、みたいな気分。
今のジムはMMAをガチめでやっている人が柔術クラスにたくさんいて、フィジカルがめちゃ強い白帯の人が多い。彼らのスパーがあんまりにエネルギッシュに見えて、それに負けないように力をこめる必要がある、と思ってしまっていたけれど、むしろぼくがガチガチに力が入っていることで、組む相手の動きを荒くしてしまっていたのではないか。相手が粗い、と思っていたけど、その粗さを導いているのは、ぼく自身の粗さのはずだ、ということにも師匠に指摘され、気づかされて、また恥ずかしい気持ちに。
自分が柔術という格闘技に魅力を感じるのは、テクニカルで知性的な部分なはずなのに、自分自身がまるで真逆のアプローチをしている。その結果、それなりのけがをたぶんしてしまって、しばらく練習できなくなった。そのことがとてもくやしいというか、情けない。
夜、二十歳くらいから仕事を振ってくれていたなつかしい先輩と神楽坂。古民家みたいなところで、鹿のタルタルを食べる。たぶん傷ついちゃった自分の肩の中のいろんな組織たちよ、この鹿肉でどうか回復しておくれ、と思ってよく噛んで食べる。
7月26日(水)
朝起きると、肩に痛みが発生している。ある角度では曲がらなくなっていて、落ち込む。朝一で病院へ。ここでは前に右膝を診てもらい、MRIを撮った結果前十字靱帯の部分断裂がわかった。だいぶ間が開いたので初診扱いとなり、問診票を書く。これまでの手術歴で、右上腕骨骨折でチタンの髄内釘が入ってること、眼窩底と頬骨の骨折と、ここにもチタンが入っていること、そして持病としての双極性障害(正確には異なるけど、説明が複雑になるのでこれですませる)と薬の名前を書きながら、笑ってしまう。なんだか説得力がありすぎるし、どんな状態でこの大けがしたんだよ、ってぼくが医者だったらツッコミを入れてしまうよなあ。
骨には異常なし。MRIを撮ることに。MRIはノイズミュージック。閉所が苦手なので目を閉じて、パターンを変えていく爆音のノイズを集中して追いかけた。結果は来週。はやく結果出てほしい。とても不安。
午後、MTG2つ。落ち込んでできないかな、と思ったけど、やっていくうちに少しずつ何かを取り戻す。けれど、2日前までたっぷりとあった創作意欲がすっかりなくなっている。
7月27日(木)
肩、いぜんとして痛い。自由に身体を動かせないことって、こんなにストレスだったのかと思う。働きたくないが、MTGたくさんあるので順番に着実にこなしていく。全部リモートでほんとうに助かる。
7月30日(日)
わたるの家で超RIZIN2を観にいく。友達と一緒に格闘技を観るっていうのははじめて。電車を乗り継いで行く。座ることができたら肩も安心だなって思ったけど、むしろ隣のひとと肩が触れあうので、不安がつのるってことがわかった。わたるのお家はかわいい一戸建てで、そこに奥さんと娘ふたりと住んでいる。小さな生活の生きている商店街がすぐそばにあって、試合のあいま、飲みものや食べものが足りなくなるたびに、そこに買いに行くのが楽しい。たまに様子を見にくる子どもたちと遊びながら、最後の未来くんの試合が終わるまで、半日遊ばしてもらう。