武田俊

2023.9.4

空中日記 #98|16年前の高円寺のアパート、夏の夕暮れ

8月21日(月)

inbodyで毎朝体重その他を計測して、3週間。体重は順調に減っているものの、骨格筋率が減っている、というか、体脂肪率が増えている。測り方がよくないのかも、と思って調べて試してみても、大差がない。測る時間は起きてすぐで、体内の水分量が少ないから高く出るはずだ。それでも毎日だいたい同じ状態で測っているので、違いはない。思い当たることといえば、毎朝食事をする前にランニングをしはじめたことで、これはもっとも脂肪燃焼に効果的な時間帯だからだった。なのに、体脂肪率が増えている。ふと、長い時間走りすぎなのでは、と思う。だいたい45分から1時間弱走っていて、この時間、空腹で有酸素運動を続けていると、おそらく脂肪ではなく糖からエネルギーを徴収しようとするわけで、すると筋肉を分解して糖を得ようとしているはず。なんて基本的なことに思い当たらず、なぜ走り続けていたのだろう、とがっかりする。

走り始めたのは脱臼をして柔術ができなくなったからで、その期間の身体をある程度仕上げておきたかったから。もっと自重を落として、負荷を減らしたかったから。でもそれで、肝心の筋肉を減らしてしまってはどうしようもない。ウェイトのためのジムは解約してしまっているので、可変ダンベルを使った自宅メニューを組むことにする。

昼、出て、リンガーハットで冷やしちゃんぽんというもの。じゅんちゃんと並んで食べる。この時間、老人が多い。みんなタッチパネル式の注文に戸惑っていて、でも昼時でホールスタッフが慌ただしく動いているので、なかなか聞けない。困っているぜんぶの人のテーブルを回って、かわりに注文をしてあげたい。そう思っているタイミングでホールスタッフが動けて、一安心した。ホールの安全で快適な運用を、外食するといつも気にしてしまう。全員のストレスない食事の時間があってほしい。

定位置で執筆。今日はpomeraだけ持ってきた。2時間いて、なんとか2000字で息切れ。どれだけ頭でわかっていても、自己検閲をしてしまう。なんでなのだろう。ぼくの場合執筆は、まずそのシーンの空間が頭に浮かぶ。ぼんやりとしているそこをドローンのカメラのような視点で、飛び回りながら探る。今書いているのは高円寺のアパートの夏の夕方で、だからそこをぐるぐるする。古い畳が湿度を含んで、ぐっと沈む。だからそれを書き、夕立がトタン屋根を叩く音がうるさいからそれを書き、やってきた登場人物の会話と仕草と服装が見えるからそれを書き──。そうやって書いていくのはいいのだけど、ふと読むと、ものすごく説明的なテキストがならんでいて「アーッ!」ってなる。なんなんだ、このまったくセクシーじゃない散文は。こんなの、人に見せられないよ、自分でも見たくないよ!ってなる。どうしたらマシになるのだろう。そう考えると、はい、ここから編集がはじまっちゃうってわけです。マジでここを乗り越えなければならない。

夕方、表参道で髪切った。いつもより高く刈り、サマーカットですねえ、でももう残暑ですね、レイトサマーカットですねえ、と調子よく出て行くも、ラッシュにハマってパニックになる。よりによって弱冷房車に入ってしまい、おじさんの熱、におい、車内に広がる全員分のストレスの塊をまっすぐに受け取りしゃがみ込みそうになる。なんとか、意識をまったく別の世界に持って行くようにして、やりすごす。これ、だいぶできるようになってるけど、解離を起こすのと変わらないので、あまりよくない気がする。

昨日買っていたラム、チゲの残り、サラダ。すぐ調子が戻るのはいいこと。『プロフェッショナル』の過去の井上尚弥の会を見、注文していた『花束みたいな恋をした』のノベライズ本をひらいてみる。映像が先立つ自分にとって、執筆の参考になると思ったのだった。でも、全然思っていたのと違い、まったく参考にならず。ノベライズって、今まででおもしろかったものがない。

8月22日(火)

今日はオフと決めていた。DIC川村記念美術館でやっている「ョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室」を見に行こうと高速に乗ると、激しい渋滞&雨。これだから夏休みは……。ナビの予想時刻も読めないため、やめてららぽーとでアカチャンホンポの偵察をしてみようということに。英断。せっかくなので、ららぽーとの全フロアを踏破して、ウォーキングの代わりにしようということに。くまなく歩いて、8000歩近く。

ベビーカーを見てみようと出かけるも、色々ありすぎてわからない。自転車でも車でもある程度わかった上で実車を見たり組んだりしてきたけど、まったく何もわからないビークルというものが久々でコーフンする。タイヤの径の違い、三輪と四輪の違い、ブレーキレバーのあるなし、対面なのか、外向きなのか、軽さ、素材、対象年齢、取り外してそのままバウンサーやチャイルドシートにもなるもの。スペックの意味している情報は明確でなにもわからないことはないのだけど、自分たちの生活に何が合うのか、肝心の赤ちゃんがいないので、何もわからないのだった。とりあえずカタログを全部もらう。チャイルドシートのももらう。

フードコートは混んでて、神座があったので煮卵ラーメンを選ぶ。神座といえば渋谷のライブハウスやクラブ帰りに食べるもので、大阪の人が聞いたら笑うのだと思う。『青の輪郭』の執筆を再開して、ちょっとした気づきとか、あるシーンの今後の流れとかをさっとメモしたい。でもそれはどうもデジタルであるべきではない、ということに気づいて、東急ハンズでノートを見た。無地で、ペンホルダーがついてる、手帳みたいなノート。というものは案外少なくて、トラベラーズノートというのを見る。これ、昔からあるやつだ。よく見てみたら、中のリフィルはミドリがつくっていて、ノートとしてはミドリの無罫のものが一番好きなので、これにしたい。キャメルがいいけど、店舗になくって、せっかく持ち帰りたかったけど、泣く泣くAmazonで購入。

車中で仕事のこれからのこと、家に帰って育児を含めたこれからのこと、を話している時にけんかしてしまう。久々のけんか。じゅんちゃんが、しっかりと心で自分の悪かった部分を認めない、受け止めない、受け止めようとするコミュニケーションをがんばらないことにイライラする。休戦協定まで時間がかかって、そのあと、じゃれつきながら傷ついたモンスターの子ども、みたいなイメージのものまねというか、空想のキャラクターを身にまとってコミュニケーションしたら、じゅんちゃんが泣いた。ぼくのその表情で、はじめて相手の傷ついた心を理解できた、とのこと。そのあと、お互いの気持ちをちゃんと話せる状態になった。

ぼくは相手の発言で自分が傷ついて悲しい思いをしたとき、まず先に怒ってしまう。あふれ出す悲しみが怒りの形となって、全身を突き抜けていくから、怖い声で「ちょっと、なんでそんなこと言うんだよ!」と言ってしまう。じゅんちゃんは根が千葉のヤンキーなので、そういう声で来られるとむしろ闘争心があおられる。「なんなんだ、こいつ? ぜってー謝んねえからな」という気持ちが出てくるので、ごめんなさいも何もかも、不本意なまま発した言葉になってしまう。その語調をぼくは許さないから「はあ、なんなんだよ、その言い方は!」ともっと怒る──という繰り返しを、ぼくらはもう何年も、いろんなバリエーションでやってきたわけだけど、それを回避するのが、キャラクターになりきったロールプレイだったとは……。と、一瞬思ったが、大切なのはそうじゃなくて、ぼくが怒りの形を借りないで、まっすぐに悲しみを表現すれば、すぐ仲直りに着地できるのだ、ということに気がついた。

帰宅して、寝室にちらばりまくった、資料としての本を整理。構造を分析するために読み直したかった角田光代『愛がなんだ』を無事救出。

夜、サバ缶のチゲをアプデ、じゅんちゃんのつくったかぼちゃと牛肉の甘辛煮、というの。牛肉とかぼちゃのほかに、キャベツとしめじが入ってて、これがすごくおいしい。かぼちゃの煮たのとか興味なかったのだけど、ひとつのお皿におなじ味で煮たものが並んでて、でも素材ごとにこんなに味が違うのが楽しいし、牛肉をかぼちゃと一緒に食べたときに、その甘みでもって味にぐんと奥行きが生まれるのが楽しい。おいしい、おいいしいと何度も言いながら食べて、これでほんとうの仲直りができた感じになって、食後に『映像の世紀 バタフライエフェクト」でマッカーサーの回を見た。

8月23日(水)

大きなけんかのあとの、平和で安心な1日。
ひどい腹痛のあと、世界が生まれ変わってきらきら見えるような日
ひどい鬱のあと、今、世界が新しく生まれたような日。
ふたりでパフェを食べた。

8月24日(木)

朝走って、顧問先の定例がリスケになったので、午後、pomeraと本とノートだけ持ってららぽーとに出勤。平日は駐車場が無料なのです。初出勤日なので、どこが作業がはかどるのかわからず、タリーズに入ってみる。タリーズ前の通路でカゴメのポップアップみたいなのをやっていて、無料で野菜ジュースを配ってる。その担当のおじさんの呼びこみの声がでかすぎて、気になる。しっぱいだ

トイレに行く。用を足していると(小のほう)、小学校1年くらいの、ちょっと肥満児という感じの男の子が入ってきた。
「あーどうしよう、どうしよう。うんちも一緒にするか、おしっこだけにするか、どうしようどうしよう」
と大きな声で独り言をいっている。
「あー、ほんとにどうしよう。ママに聞けばよかった。しょうがない。どっちもできるし、個室にしよう」
そういったあと、トイレの中を2往復くらいして個室に入った。
個室でもも「あーどうしよう。出るのかな、出ないのかな。どうしよう」とずっと一人でしゃべっていた。

そういえば、このあいだイオンで用を足していたら(小のほう)、隣に年長さんくらいの子がやってきて、太ももまでズボンとパンツをさっと下ろし、おしり丸出しのまま自信満々なムードで腰に両手を当てて用を足し始めた。その子は勢いよく放尿しながらこっちを見て大きな声で
「こんにちわ!」
といった。
「おお、こんにちわ」
と驚きつつもにっこり返すと
「このあとね、温泉に行くんですよ。いいでしょう」
と含み笑いを浮かべ、腰に手を当てたまま、おしっこを切るために左右にちんちんを振り回していた。

ショッピングモールのトイレには、ファンキーな男児が多い?

8月25日(金)

トラベルノートってのを買って、それをいつでも持ち歩く執筆支援用ノートにすることにした。久々のフィジカル文具、楽しい。その日したいことと、気づき、作業ログをそれにとることにした。それによれば

◎今日したいこと
・とにかく原稿を動かそう
・ていねいになりすぎなくていい

◎作業ログ
・4059字→4756字
・pomeraに向かってもなかなか進まない。書いたものこねてる。

とのこと。こねなくていいのに、いつも書いたらすぐこねてる。
それでいつもなにかのせいにしたがる。今回はpomeraにタイプライターモードがないことのせいにしたがっている。

執筆のためにPS5を片付けて(もらって)2週間弱。今日がアーマードコアシリーズ10年ぶりの新作発売日だということは知っている。やるのか、やらないのか。自分はどれだけACシリーズが好きだったのか。色々考えて、ええい、としまったPS5を引っ張り出してしまう。即購入&ダウンロード。チュートリアルがはじまって、「戦闘モード、起動」というコクピット内でのアナウンスだけで、感動で身震いする。

指が操作を覚えていた。けど、覚えていたのはPS初代の「マスターオブアリーナ」のそれだったので、だから何回もボタンを押し間違えた。あのときのアーマードコアは、まだオーバードブースト(それも今回はなく、アサルトブーストと名前を変えている)なんてなくて、×ボタンジャンプと長押しの通常ブースト、R1orL1の旋回を同時にここん、と押すことにより小刻みにブーストをかけることで、相手の攻撃を避けていた。メインになるのは中間距離の射撃戦で、だからってそれに合わせた汎用性の高い機体を組むのはいやだった。

限界まで積載量を下げて機動力を上げ、紙のように薄い装甲ながら近接に特化した機体を組む。上記の小刻みブーストで射線をギリギリで避けて、相手に近づき、メリケンサックみたいな手に装着する形のマシンガンを浴びせて、ブレードで大ダメージを与える。強化人間化しているから、○ボタンのあとタイミングよく×ボタンを押すことで、ブレードからソニックブームみたいな波動が出て、それが大爆発を起こす。そうだ、あの特殊な形のマシンガンは、WA-Fingerって名前だった。ほかにもKARASAWAとかおぼえてる、おぼえてる。

チュートリアルのボスのヘリが強くて笑う。アセンブルを変えて対応しようと思うも、チュートリアル中なのでまだショップも解禁されていないので、何も変えられない。積んだwと思った。そして、これがフロムだと思ってうれしくなる。フロムソフトウェアのタイトルに最初に触れたのが、アーマードコアだったんだなあ、と思う。さて、どうしようか。考えて、ブレードか?と思ってそれで押し切ったら勝てた。勝ち筋がどこかにちゃんと設定されているのだ。

メインミッションを進めると、そうそう、と思う。キャラクターの顔とかなくて、ただ無線を通じて企業からの依頼を受け取っていくのだった。これはフリーランサーの物語なのだった。ドライでクールで無駄のないハードなナラティブ。顔が見えないから、相手の姿はACのデザインと口調と無線で表示されるエンブレムから浮かぶイメージそのものだった。それがぼくは好きだった。

いくつかのミッションを終えて、逆関節の機動力の高い機体を組む。こういうのが好きだった。これでたくさんの弾を避けていきたい

8月26日(土)

執筆。pomeraでがりがりやって、でもあまり進まない。たくさん書ける日と、全然そうならない日の違いがわからない。たぶん毎回具体的な課題にぶつかっているのだけれど、現れ方としては「書けない」という形でしか顕現しないから、課題すらうまく見えないのだと思う。それで今日は書けないなりに考える日にした。したというより、するほかなかった。

◎作業ログより
・何がうまくいってないのか、ちょっと分かった気がする。
・書くことはできる。ただ「動き」に身を任せていると書きすぎていて、密度が高すぎて「ちがう」と思ってしまうみたい。
・もっと抜けのあるテキストがいい。川上弘美みたいな。ブランクのあるパラグラフがあっていい。全部を説明しなくていい。
・4756字→5473字
・前半部と合体させて、ここはこれで仕上げてみてもいいかも?

UFCがシンガポールで開催されているから、時差なしで見られる。時差なしでオンタイムで観るのははじめてかもしれない。この土日はUFCだ。今日のファイトナイトで、木下くんが出て、風間俊臣が出て、中村倫也が出る。明日はRoad To UFCっていう世界中のローカル団体の覇者みたいな人が、UFCとの本契約を争うトーナメントの準決勝があって、鶴屋怜とかが出る。

木下くんが負けた。的確にパンチを当てて試合をつくっていたから、ショックだった。何をもらったかわからなくて、リプレイみたらボディストレートみたいなので、それで崩れた。MMAでボディへのパンチでのダウンってあまり見たことないから、なおショックだった。

8月27日(日)

ノジマでオーブンレンジを見た。今使ってるやつは、じゅんちゃんと暮らしはじめた時に買ったものだから、たぶん7年前くらいのもの。センサーもばかな感じで、あまりちゃんと解凍されなくて、数年前から買い換えを検討してた。今日見たやつも、今年のはじめくらいに「あれいいね」と思ってたやつで、白物家電(っていいかたいまはあまりしないかもしれない)って、完全に壊れない限り買い換えるのがなかなかむずかしい。

かわいいのがひとつあって、象印のもので、機能面も自分たちには十分そうで(何でも調理ができるスチームオーブンはいらなそうだった)、でも、Panasonicのビストロシリーズから9月に新しく出るやつがあって、それはフラッグシップの多機能を必要としていない人向けの新ラインという、まさしくぼくらの需要そのもののモデルなので、帰宅してスペックを比較することにした。

執筆のためにかわるがわる、いろんなものを読む。読んだそばから何かの影響を受けてしまうので、いまの課題(ひとつのことに密度をかけすぎること)に対して、必要そうな文体を本棚の中から探す。ぼくの文章は饒舌すぎるのだ。ふだんから、「さも自分で見てきたようにおまえは語るなあ」と言われて、それはある種の褒められでもあるけれど、著者自身の過去の話を饒舌に「見てきたように」語られると、読者としては重たいのだ。饒舌で演出がかってると感じてしまう。

こういうとき、翻訳ものはむかないので、探すのは日本人の作家だ。川上弘美の『センセイの鞄』とか短編集とかをひろい読みして、山下澄人『しんせかい』を積んでたのを読んでみた。何かちょっと変化する予感。

夜、UFC。わたるとLINEしながら見る。こんなときに限ってテレビが不調で、フレームレートが低下している感じ。回線速度は申し分ないので、アプリ側か、テレビ本体の問題だ。ややかくつき、動きに残像が残った世界で鶴屋怜が奮闘していた。勝敗はもちろん、試合の内容をよく見せたい、自分のテクニックの引き出しを知らしめたい、と感じさせられる動きだ。ツイスターにこだわっていた。前の試合でツイスターで極めそこねているし、たしかUFCでも数回しかツイスターでフィニッシュはないから、こだわるのもわかる気がする。でも、それ以上に査定されるとしたら、着実に決められる選手かな気がした。レスラーなのだから、漬けて、殴って、削って、最後にパウンドアウトかサブミッションでいい。それを見たい。けど、わかる。めっちゃ低レベルだけど、ぼくも分かっているのにできないことが、スパーリングだとある。あるっていうか、ほとんどがそうだ。むずかしいものだ。3Rフルで戦って判定勝ち。解説の高坂さんが、「フルラウンド戦う経験できたのは収穫」「勝って収穫がある試合はよいものだ」といっていて、そういう考え方がいいな、と思う。