武田俊

2024.5.1

空中日記 #121|お食い初めの鯛のリサイクル

3月11日(月)

イオをじゅんちゃんに見てもらって、母と西松屋へ。最近アカチャンホンポに対して、より安い衣類を売っているのが西松屋、っていうことを、行ってみて知った。しまむら的なポジション? 4月からの保育園に向けて色々準備をはじめていて、タオルエプロンっていうのの自作が推奨されていた。これはタオルをふたつ折りにして、そこにゴム紐をつけたエプロン。なんでスタイじゃだめなんだろう、と母にいうと、食事の時とかにからだ全体を覆えるほうがいいから、とのこと、なるほど。

メルカリで見たら5つで1500円とかで自作したものを打っているアカウントがたくさんあって、これでいいじゃん、と思うも、なんだか自分でつくってみたくって、それは手作り愛情神話とかじゃなくって、これからも何かしら裁縫の機会があるだろうから、久々に手を動かしてみたいという気持ちが生まれたかららしい。炊事、掃除はできるから、裁縫も久々にやってみて全部できるお母さんになりたい、と口からは言葉が出てきて、母は「なにそれ~、いいじゃん!」といって笑った。

3月12日(火)

お食い初めとお宮参りの日。今週、今日だけ雨だというものの、なんとか天候が持ってくれてよかった。結婚式も顔合わせの時間もなぜか持たないまま来た夫婦なので、今日のような日がなかったら、それぞれ顔を合わせることもなくすんでしまっていたのかもしれない。そう思って、乾杯のあいさつの時に「イオちゃんが今日の機会をつくってくれました」というと、後からじゅんちゃんにあそこがよかったと褒められる。イオ、歯固め石をすごくいやがる。本来趣味でもないのにせっかくこういう行事をやるのだから、ちゃんと口に持って行こうとすると、へーん、といって首をそむける。母が「やだ、なんか拷問みたい」という。

3月13日(水)

お食い初めといっても食べる真似なので、まるまるごはんは残る。大人には大人のごはんがあるわけで、それで持って帰ってきた鯛の塩焼きをどうしようか、とずっと考えていた。冷めた塩焼きをそのまま食べるのはいやで、ほぐして混ぜごはんにするか、鯛みそってやつをやってみるか、どうするか、で、前者が選ばれたらしかった。身をほぐし、玄米に混ぜ込み、そこにすこしの昆布だし、梅干しをたたいたの、塩昆布、ごま、刻んだ葱を加えて、最後に余っていたかいわれを乗せた。とてもおいしい。ありものでリメイクできたことが何よりうれしい。鯛みそは、お酒飲まないしな、と思ったものの、ごはんをそれで食べればいいわけで、次試してみたい。鯛が余るようなことがあるといいな。

3月15日(金)

じゅんちゃん卒業式と謝恩会のため終日ワンオペ。それで朝、ソファにクッションを置いてイオにミルクを飲ませたあと、普段なら下に下ろすなり、なんなりするものの、一瞬だからとそのままの状態でシンクまで哺乳瓶を置きに行く。その一連の移動の中で、ぱっとレーズンクッキーが目に入り、一枚抜き取って口にくわえ、もとのリビングの位置に戻ろうとするとき、視界の隅でうつぶせになろうと反転したイオが、ゆっくりとソファから落ちていくのが見えた。咄嗟に手を伸ばしたが、キッチンからじゃそもそも届くわけがなく、そのままごとっと落ちた。

すぐに火がついたように泣き、顔は真っ赤。あわてて抱きかかえ、ごめんねごめんね、といいながら、どこかけがはないか探しまわる。幸い分厚いラグに替えたばかりで、ちょうどそこに落ちたからか、外傷はないようで、それでも心配は抜けない。痛みというより、きっとショックで、なかなかイオは泣き止まなくって、なんども謝りながら背中をさすった。とても怖かったと思う。たぶん、人生ではじめて恐怖を感じているかもしれない。本当にかわいそう。後悔が消えなくて、1日中ずっと苦しかった。

3月16日(土)

体重計に乗ったらなかなかにまずい数値になっていたので、あらためて食事を記録していくことにする。ほんとうはランニングとウェイトトレーニングをしっかりやりたいところだけど、なんせ体力を保存しておかなければとても育児に対応出来ないので、難しい。運動するための体力がないからストレスが溜まり、溜まったストレスのせいでジャンクフードなどを食べたくなる。食べたなら、運動をしていないのでどんどん太る。なんとも不憫な悪循環。

今日もワンオペ。午後、公園に行こうと散歩に出る。久々にベビーカーじゃなく抱っこ紐を使うことにして、ちょうど踏切が閉じるところだったのでおとなしく待っていると、電車が通り過ぎる時の騒音で、イオの口がみるみるへの字になり、へーんと泣きはじめた。今まで、対外的な音に反応してぐずるということがなかったので驚く。聴力もどんどん上がっているようで、彼女の認識する世界は日を追うごとにどんどん解像度が上がっていく。新しい「泣き」のタイミングで、ぼくらはそれを知らされるから、泣いているのに成長を実感してうれしいような気持ちになる。今、どんなふうに見えて、聞こえているんだろう。

3月17日(日)

晴れ 21℃/6℃
日記では書きすぎない練習をすればいいか、と思ってそれをやってみたい。できたら1日1エピソード。食べたものや行った場所の記録とかは、したければカウントせずやってよい。

連続ワンオペだったので、今日は事実上のフリーに。ROTH BART BDARONのライブの時間まで、チバさんのエッセイの最終作業をするためにカフェへ。めずらしく素晴らしい集中に恵まれ、推敲が進む。そのまま告知は明日にすればいいと思い、入稿してアップすると移動するのにちょうどいい時間になっていて、トイレに行っておく。ちょうど少しお腹が痛い気もしたので便座に腰掛け、何か脳が興奮状態にあったからか連続した動作でスマホをひらき、なにかを読みながら用を足す。ことがすんで立ち上がろうとすると、足下がなぜか濡れていて、ズボンや下着も濡れていて、どうやらポジショニングが良くないままかつスマホを見ながらだったので、色々外れてしまったらしい。なんで今なんだよ、泣きそう、と思い、まずはきれいに掃除を進める。このカフェ、いつも使っているのはどこよりもお手洗いが常にきれいで、それが気分を良くしてくれるからだった。その良さを知っているぼくなので、来たときよりもできるだけきれいにする。

さてどうするか。このままは無理だ。近くのユニクロでも行こうか。もうずっと前のPARTY中村さんのあのブログ記事のことを思い出す。あれよりはましだけど。帰宅することを決心する。家でじゅんちゃんがびっくりしたように笑う。笑い話なんだけど、万全のプランが崩れてぼくはウツの入り口に立ちながら、とりあえずシャワーを浴びた。出たらもう心がすっかり曇ってしまって、ライブには出かけられなかった。近年で一番いいアルバムだったのに、そのツアーファイナルだったのに。