武田俊

2022.1.3

2021年、さよなら日記

毎年のことを振り返る、そしてテキストに記述するという文化をぼくは持っていなくて、あれでもちょっと前までは書いていたのじゃないか、と思って探ってみると自分のサイトを立ち上げた2018年以前はnoteを使ってまとめていたようだった。

https://note.com/stakeda/n/n0d3e2b7bd9e7
https://note.com/stakeda/n/n11447b8f92d7

思い返す日々は二度と取り戻せないというだけで情緒的になってしまうから、ただ淡々と事実を書いていきたいと思う。それでもはみ出てしまう情緒のことについては、大切にしたいと思う。忙しかったアピールも、辛かったという吐露もいらなくて、ただそういった日々があった、ということを残しておきたい。

2021年1月

2020年末に体験に行って、この月から正式にリバーサル東京スタンドアウトに入会してブラジリアン柔術をはじめた。10代半ばの頃からずっと見てきた格闘技の、そのささやかな歴史の末端の末端に自分が入り込めたことがうれしかった。柔術はリアルタイムの将棋やチェスのようで、知恵の輪のようである、とほうぼうで話し続ける。使い始めたmiroで熱心に技のチャート図を制作する日々。ブラジル移民史に興味を持って、石川達三『蒼氓』を読む。第一回の芥川賞受賞作で、1935年の作品だった。

BONUS TRACKにジョインして、イベントの企画・運営のあれこれをする。ぼくが本来行うべきなのは、イベントのつくられかたをつくる、ということで、それ自体は行なっていたのだけど次第にイベント自体の企画・運営もしていくことになっていった。

『MOTION GALLERY CROSSING』特集は『激動の時代でのメンタルヘルスの保ち方』。歌手で俳優、クリエイターのレ・ロマネスクTOBIさんと、ラッパーのGOMESSさん。久々のGOMESSくんとはじめましてのTOBIさんとの対話が、想像以上に弾んでうれしい。九段ハウスでの対面収録は、しかしこれを最後にしばらくリモートに切り替わる。
https://propo.fm/motiongallerycrossing/35

2021年2月

柔術の師匠であり、小説家の荻堂顕さんに「ON THE PLANET」のゲストに来てもらう。この時もスタジオに実際に来てもらえていた時期。放送後、SNS写真用にアームロックをかけてもらう。『擬傷の鳥はつかまらない』が自分の中でとても大きな小説となり、いろんなひとに薦めまくる。

土日はBONUS TRACKでイベントが開催されるので、現場にできるだけ行く。みんなと会えるし、阿久津さんや内沼さんと予定を立てなくても会えるので楽しい。けれど、休日がなくなっていくということに途中から気づく。

WWWでゲストに来てもらっていたKroiのライブ。このあとしばらくライブに行けない日々になった。

出先ではiPad ProのSidecarを使って、マルチディスプレイ体制で作業をすることを試みるも板を2枚持ち運ぶのがいやすぎて早々に断念。

一回更新を遅れたせいで出遅れていたが、免許がゴールドになる。

編集長を務める『M.E.A.R.L.』では本丸であるMAD City関連の記事が増え始めていく。いい兆候。オンラインでのトークセッション「M.E.A.R.L. ASSEMBLE』も毎月行なっていった。

「MOTION GALLERY CROSSING」の特集は『持続可能な社会における創造力』。ゲストはモデルの長谷川ミラさんと、University of Creativity(UoC)サステナビリティフィールドディレクターで、株式会社博報堂クリエイティブプロデューサーの近藤ヒデノリさん。全員をファーストネームで呼び合う文化が(この回だけ)生まれる。
https://propo.fm/motiongallerycrossing/39

横浜国立大学で開催されているアーティストマネジメント関連の連続講座「都市と芸術の応答体」a.k.a. 「RAU」の取材で横浜に。久々に三宅唱監督にインタビューする。現場の撮影が黑田菜月で、いきなりホーム感。三宅さんは、時間が空いても久々に話した感じのしない人のひとりで、行く前からずっと楽しみにしていた時間だった。とてもいい取材ができて、同行していた中島晴矢くん、広報のさくらさんにたくさんほめてもらえて幸せになる。

http://mearl.org/rau2020/

終わったあと、安東さん、後藤さん、さくらさんといっぱい飲もうと思って野毛に出てみるも20時すぎでどこもやっていない。「野毛ですらか……」と言いながら、安東さん後藤さんと渋谷まで戻り、モグリでやっていた行ったこともない居酒屋にインしたりした。外食するのが悪いことのようで、どきどきする。

冬のひかりの写真をたくさん撮る。

 

2021年3月


柔術はたくさんのガードポジションを駆使していく競技だが、持ちガードというのを定めたほうがいいと聞き、デラヒーバをメインのひとつにしたいと決める。デラからはベリンボロというモダン柔術のベースみたいな、いきなりバックポジションを取れるハイリターンでアクロバティックでかっこいい技があるんだけど、そのためにはきれいな横まわりができないといけない。で、全然できなくて家で練習したりしていた(ちなみに全然まだできない……)。

放送大学で水越先生がメディア論の授業をやっていて、久々にじっとテレビに見入る。

初の単著である私小説の執筆が再開される。
記憶を取り戻すために、沼袋、新井薬師、中野のリサーチに。東京にきて最初に住んだアパートや、当時とは趣のだいぶかわった平和の森公園や、当時とは味がちゃんと変わっていない麺彩房のつけ麺(人生ではじめてつけ麺を食べたお店)を食べたり。

「MOTION GALLERY CROSSING」特集は『インディ・ミュージックの現在地』
ゲストはマイカ・ルブテさん、本田次郎さん。エロ以外では、いつだって音楽がメディアの変化に対して先陣を切っているんだよな、って話した気がする。https://propo.fm/motiongallerycrossing/43

所属する草野球チーム新代田キャッチボールクラブ、ピエール学園戦で7対6で勝利。

XE-4を手に入れて、この時から写真を撮る習慣が生まれる。「#光の標本」シリーズの撮影がはじまる。

じゅんこ先生、髪の毛が赤くなる。

幡ヶ谷の緑道でやったお花見が地味に地味に幸せだった。
あと「ON THE PLANET」ゲストに来てくれた水野蒼生くんと放送後、始発まで千鳥ヶ淵でもお花見をした。皇居の向こうから朝日が昇ってきて、すごくイデオロギッシュと(ぼくが)騒いだ。

 

2021年4月

髪の毛のハイライトが青になった。

柔術の技チャートが複雑になっていって、自分でもどう整理したらいいのかわからず放置。

長谷川新 a.k.a. ろばとがキュレーションする連続企画展『約束の凝集』の、黑田菜月個展『写真が始まる』を取材する。写真家による動画作品、そのタイトルに込められたものが作品を観ていて感じられグッとくる。
http://mearl.org/shashingahajimaru/

キュレーターとしてのろばとの作家に向き合うアティチュードや距離感の良さがぼくは好きで、これは理想の編集者の立ち位置だなと思う。この時の距離感というのは、心と心が面する時の比喩ではなく、打撃系格闘技で使われる距離感、という言葉に近い。近すぎず遠すぎず、打撃が有効にヒットするその距離感という感じ。

自分で取材をしたい欲をこらえて、晴矢くんとごとうさんに全振りするというチームプレイに徹する。こういったものを増やしていって、ぼくはアイディアと人と人、現場と現場をつなぐプロデューサーおじさんたるべし、というのが今年の方針だったのだけど、それが年末に全部崩れたんだよなあ。この時はそんなこと、まだ知らない。

「MOTION GALLERY CROSSING」特集は『見える音、聞こえる風景』。ゲストはウェブ版「美術手帖」編集長の橋爪勇介さんと、THEATRE for ALL LAB編集長/ボイスパフォーマーの篠田栞さん。
https://propo.fm/motiongallerycrossing/47

某社社長へのウィークリーコーチングプログラム開始。
壁打ち相手となりながら、結構な頻度で事業アイディアや小さなきっかけを打ち込んでいくのはなかなか向いている仕事のようだ。

書体のモリサワのライセンスプログラム・MORISAWA PASSPORTユーザ限定公開の講座「FONT COLLEGE」の司会をする。前回のゲストはブックデザイナーの佐藤亜沙美さん。今回はNOSIGNER代表の太刀川英輔さん。メガネと髪型かぶってるね、なんて言い合いながらスタート。がっつり太刀川さんの仕事論に、時系列を追って触れられてとてもいい回に。
https://note.morisawa.co.jp/n/nddce951381f9

仕事で悩んでいたのだろうか。じゅんこ先生、ぼくが仕事をしている時のイラストを話しながら描いてくれる。大量の、ぼくの根本的な部分を支えているお茶目で子どもっぽいペルソナたちが、幕間から眺めている。「この子たちを大事にね」と。

名古屋に立ち寄ったときに、アートディレクターの青木さんご夫妻に連れていってもらった「品川」のどて煮が絶品でたまげる。ここに串カツを投入していく、その作業が楽しすぎてお腹いっぱいなのにもう一本食べたくなる。

そういえば、毎年審査員を担当していた名古屋の地方文芸賞の仕事はコロナで一時事業が止まっていたが、そのあと音沙汰なし。さっき調べたら今年度は別の審査員で再開されていた……。事情は知りませんが思いを込めて採算関係なくやっていた仕事なので、一報くらいほしかったですね。

 

2021年5月

柔術ではじめて耳が沸く。左耳だけ。なんか寝る時痛いなあと思っていたのだが、見た目は変わらず。で、ある時急にぽっこりと膨らんだ。いろんな人に聞いて、病院で血を抜いてもらう。流れていない体液だから、注射器で引っ張る時めちゃくちゃに痛い…。もう抜きたくないので、イヤーガードを買った。


根尾くん、プロ初ホームランが満塁弾。

できたばかりというか、出来かけのMAD Centerで取材。とてもいい場所になっていきそう。松戸にちょっと住みたくなる。
http://mearl.org/mism/

21_21 DESIGN SIGHTでの「トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう」で、清水淳子の作品に聞き手として参加。さまざまなことがありこの形式に至ったが(そのいきさつについてここでは書かない)、彼女とはじめて共同制作をおこなったことが、その後のぼくらのクリエーションについてのあり方にいい影響を及ぼしたということだけは記しておきたい。いつだって唐突にもたらせた苦しい状況から、光を見出すしかないし、そのためにたしかに芸術は機能する。

全然使えていない事務所に、じゅんこ先生の席をつくり二人でなんとか使っていこうと話す。
同時に自室の作業環境を再構築すべく、AKARACINGの一番いいチェアを導入。ゲーミングチェアでありながら、プロ野球が採用したというのが理由の決め手だが、レザーのシートは暑がりのぼくには蒸れてしまいがっかりな感じ。早くも代用品を探し始める。モニターアーム、ドッキングステーションも導入。

自著の執筆進む。Web連載の方式を話し合って、そのバナーを自ら制作する。いい感じでどんどん執筆も進んでいく。しかしこのあとあるショックな出来事をきっかけに執筆が再度止まってしまう……。

大学の授業はリモートに戻ってしまう。せめて楽しい気持ちになろうと思って、序盤にヒカキンのモノマネをしたらそれを新見がスクショして仲間内のLINEグループに投下。「バーバパパみたい」となって、すぐにコラがつくられた。バーバパパ、みたいか?? 他にもたくさんのコラが……。

小田原方面の管理釣り場で、ニジマスをマイクロスプーンで釣った。1級ポイントの国府津のサーフではボウズ。

2021年6月

OMENのゲーミングPC買う。とても早く、よく光るいいマシンだ。『バイオミュータント』『VALHEIM』などやってみたかったタイトルをSteamで購入する。

新代田キャッチボールクラブ、にゃんにゃんタイガース戦に18対8で大賞。神主打法にフォームを改造した結果、あとちょっとでホームランの2ベース。久々に打てていてうれしい。

ゆうたろうと多摩川へ。調布から府中へと移動しながらの自転車ランガン。マルチピースではなく、テレスコロッドがほしくなる。ゲーリーヤマモトのレッグワームで30センチくらいのスモールマウスバスが釣れた。お気に入りのビオトープエリアを見つける。

21_21に出来上がった作品を観にいく。たくさんの人が観ててくれていた。

「MOTION GALLERY CROSSING」特集は「ありがとう!そしてこれからもヨロシク!番組2年目突入スペシャル月間」。2年目を迎え、念願のオンラインリスナーコミュニティ「もしもし文化センター」がロンチされた。

https://propo.fm/motiongallerycrossing/51
https://basic.motion-gallery.net/community/moshibun/

デザインセンターの釣り部に混ぜてもらって、イサキを釣りに行った。イサキのあたりは電撃的で鋭角でものすごくたのしい。一番美味しい時期で梅雨イサキと呼ばれているそう。おすすめしてもらった通り、刺身以上に一夜干しが絶品。

柔術、8月半の関東大会にエントリーしてみようと思い、減量を開始する。階級を迷い師匠たちに相談。80キロ弱まで体重が増えていたのでライト級にと思ったが、道着込み70キロのフェザー級を勧められ決心する。1日1400キロカロリーでPFCバランスを設定。

師匠・荻堂さんに、小説家として大学の講義のゲストに来てもらう。そんなに歳の変わらない現役小説家の話は、学生にすごく響いた様子。リアクションペーパー(がわりのGoogleフォーム)にたくさんいい感想が届く。

 

2021年7月

何事もプロにアウトソースするのが基本っしょ。ってことで、格闘家の榎本明さんのパーソナルトレーニングを開始。8回分のチケットを購入する。フィジカル面での先生が、ダブルあきらさんになる。エニタイムフィットネスにも入って、最寄りの地獄ことエルゴマシンでのトレーニングを開始。死ぬほどつらいけど、それがいい。タリバンの兵士たちも導入しているとのこと。プロテインはもちろん、BCAAほか大量のサプリメントも導入。あすけんでの食事記録も。水曜と日曜だけでなく、土曜の田町のクラスにも通い始めた。体重どんどん落ちていっておもしろい。

博報堂赤坂ビル内の、UoCにて取材。近藤さんとの対話はドライブの仕方がとてもよくって、思わぬところに到達できたいい取材になった。とてもほめてもらえてうれしい。
http://mearl.org/circulation06/

一方で、編集長としての現場以外でのパフォーマンスが落ち始めていた。編集者の実務の8割は実直な裏方業務で、予算と進行管理、オファーとスケジュール調整など端的にいえばPM的なワークがほとんどだ。普段なら問題なく進められているものの、本質的には向いていない作業で、そういうものからパフォーマンスが落ちるというのがどういう状況か、ということをもう少し考えておくべきだろう。この時は(も)馬力で解決しようとしていた。

「MOTION GALLERY CROSSING」特集は『すべての創作は生活からはじまる!』。ゲストは「me and you」の竹中万季さんと野村由芽さん。かねてからぼくは彼女たちの手がけた「she is」を方々ですばらしい!と言い続けていて、ふたりの新しい活動がとっても気になっていたのだった。https://propo.fm/motiongallerycrossing/55

ジオラマラジオ解散ライブ。
最後のライブなのに終わった後「俺、歌うまくなったんですよ〜」というレンくんに、少しだけさびしさを払拭してもらえた。ライブ後の遠藤さんの表情が忘れられない。

ROTH BART BARONライブをスタジオコーストで。最高。同時代を生きることができて誇らしいバンド。このあとコーストの終了のニュースが流れた。このままROTHのライブが自分にとっての最後のスタジオコーストでもいいな、と思う。

 

2021年8月

ハイライトがエメラルドグリーンになる。『サイバーパンク2077』の影響か。

さらなる減量強化のため、1日1200キロカロリーまで落とす。一時、オーバーワークシンドロームの症状が発生。睡眠をとっているのに、圧倒的な寝不足×二日酔い、みたいな疲労感と頭痛が取れない。3日ほどトレーニングを中止せざるを得なくなり、その3日で体重が戻ってしまいそうな不安で今度は眠れなくなるも、無事回復する。

圧倒的に体の形が変わり、高校生ぶりに割れた腹筋が顔を出した。これには感動した!カメラロールには得意そうに上裸でポージングをしている写真が毎日のように撮影されている…。

しかしお盆後の圧倒的感染者増とワクチンが間に合わなかったことで、エントリーしていたものの大会の欠場を決める。これはほんとうにほんとうに悔しかった……。

それに関連してか、あるいはコロナのもろもろの影響か、それともオーバーワークか、あるいは全部か。とにかくメンタル圧倒的に不調となり、仕事のしかたを見直し始める。

イライラを解消するかのようにデザインセンター釣り部に混ぜてもらい、タイ釣りに。新調したエギングロッドとリールで臨み、真鯛、ホウボウ、イラ、カサゴなどを釣る。イラは言われた通りおいしくなかった。

「MOTION GALLERY CROSSING」特集は『住むとはたらくを建物から考える』と題して、本間桃世さん(「荒川修作+マドリン・ギンズ東京事務所」代表と、本間綾一郎さん(「株式会社HATC」代表)さんをゲストにお迎え。はじめてゲストの苗字がかぶり、ハッチの本間さん、三鷹の本間さんと呼ぶことに。反天命の英訳がリバースデスティニーだと知りグッとくる。グレンラガンじゃん!
https://propo.fm/motiongallerycrossing/59

文化的な事業者向けの文化庁のワクチン、新美に打ちにいくもそれが異物混入ロットだったと判明。仲間内でもけっこう打っている人がいて「ぼくたちが社会の異物だってことだな」と笑うしかない。

 

2021年9月


何かが閾値を突破した。
こんな状態で都心に住んでいるメリットはなにもなく、また使えないまま家賃を支払い続けている事務所のこともいやになる。体調不良の根本はここにあったのか、とわかり、引っ越しを計画する。第一候補は小田原。しかし内見に行くも同じような考えて移住を検討している人が多いらしく、賃貸物件に全然空きがない。西湘バイパスそばの戸建物件を見つけ気に入るも、契約ギリギリで回避。騒音と海に近すぎることが懸念だった。しばらく物件をWebで探すことを継続することに。

そんなタイミングで自宅マンションの建設以来の、大規模外装改修工事がスタート。分譲マンションの賃貸の部屋だから、ぼくらにはあまり関係のないことではあるが、大騒音の中の生活がはじまってしまう。さらに体調は悪化する。今こうしていても柔術と釣り以外の記憶が、つまりシンプルに心から楽しめるもの以外の記憶が抜け落ちていることに気づいた。

「MOTION GALLERY CROSSING」特集は『翻訳が紐解く文学と社会』と題して、西崎憲さん(翻訳家/作家)と松永美穂さん(翻訳家/早稲田大学教授)をゲストにお迎え。翻訳は流通だ、という話題が個人的に刺さる。

https://propo.fm/motiongallerycrossing/63

引っ越し先を海辺をあきらめ、水辺に解釈を広げ2つの候補地を挙げる。Webでまずはリサーチ。不動産屋さんにもアタックするも、小田原と同じく都心からの引越し需要増のため例年なら物件の多い時期だが全然ないとのこと……。時間をかけてでも探そうという方針に。しかし体調の悪化は止まらない。

「都市と芸術の応答体」a.k.a. 「RAU」の今年度の取材のために横浜国立大学に、自分の学生2名を連れて出かける。キャンパスとってもいいところ。座談会もいい取材ができた。どういう状況でもだいたいいい取材ができるのは、自分のいいところ。ここにかけては自分を信用できている。なんせ発病した2014年、サイテー最悪レベルの希死念慮の渦中ですらトークセッションへの出演はでき、かついいパフォーマンスを発揮できたのだから(でもそのあとの反動はほんとうにやばかった…二度と体験したくないほどに)。

気合いを入れるために仕事部屋の本棚に、新井秀樹作品の一段をつくる。それで元気が出てたけど、これも今思えば大変危険な兆候でしかないなぁ。ほんとその場面場面では気づけないことばっかりだ。

2021年10月

デザインセンター釣り部でタチウオ釣り。タチウオははじめて。120センチを越えるとドラゴン級と呼ばれるそうだが、釣り上げたのは100センチほどで残念。しかしほんとどう食べてもおいしい魚だ!

この頃より火曜日のオンプラ明けの午後、旧中川でのハゼ釣りが習慣化する。RGMの延べ竿ほんと買ってよかったな。近隣住民の晩ごはんのおかず調達のためのハゼ釣りを見て、かなわないなあ、生活に溶け込んだ釣りは美しいなあとうなる。

カメラロールを眺めても仕事の記憶が戻ってこない。

『POPEYE』が世田谷区と一緒につくった福祉に関しての冊子「きみも福祉の仕事してみない?」でインタビューをネオさんにしてもらう。タイトルは「他者になって互いを知る。文学が育むケア」寺尾紗穂さん、宇多丸さん、田中みゆきさんなど豪華。文学の持つ効能について、長年考えていたことが少しずつことばとなったようなインタビューだった。

今年最後、渓流が終わる日に河津でキャンプをしてアマゴを釣る。パーマークの美しさに震える。渓流魚の中で、もっとも見た目が好みかもしれない。来年はいい時期にたくさん渓流に行ってみたい。

「MOTION GALLERY CROSSING」特集は『すきなときに、すきなごはんを。』と題して、オカヤイヅミさん(漫画家/イラストレーター)をゲストにお迎え。オカヤさんがずっと読者で、彼女の創作と生活と食への向き合い方をずっと好ましく思っていたからこういうふうにお話しできるのはとてもうれしい。しゃべり仕事の醍醐味だ。
https://propo.fm/motiongallerycrossing/67

 

2021年11月

旧中川で歴代最大サイズ(たぶん16センチくらい)のマハゼを釣る。今度からスケールを持っていきたい。

釣りや野球を楽しくやっているが、その裏で色々ままならない感じに時間が進んでいた印象。やっと引っ越し先が決まりその準備なども進めていた。

「M.E.A.R.L.」では段ボールアーティストの島津冬樹くんに取材で久々の再会。かつて愛媛は八幡浜まで、東京で拾ったダンボールで財布をつくりアポ無しで生産農家さんにプレゼントしにいく(トヨタの車で)っていうオウンドメディアの企画で一緒に旅をしてから、彼のことはずっと応援してきたのでうれしい。こうやって振り返っていくと、やはりぼくはナラティブを使って人と関わる現場のことは、いつだってうれしいと感じているようだ。

「MOTION GALLERY CROSSING」特集は『これからの街の映画館をつくる。』と題して、「Shimane Cinema ONOZAWA」の和田浩章さんと、シモキタ・エキマエ・シネマ「K2」の北原豪さんをゲストにお迎え。いつだってリスクテイクして場所をつくろうとする人の言葉は、熱情に満ちていて感動。

https://propo.fm/motiongallerycrossing/71

月末に引っ越し。新しい町のことがほんとうに好きになる。広い歩道、川までの距離、歴史のある街並み、されど駅前のモール的利便性。多摩エリアというのが、地方都市で育ってぼくにとって、じつにいろんなものがちょうどいいのかもしれない。都心で予定することなく仲間たちと集い、論を交わして、飲んで、仕事をする。そういうユースの時代が自分の中では明確に終わったのだということを知る。

それはひょっとしたらさびしいものかと思っていたが、全然そんなことはなかった。むしろはじめて自分の人生を始め直せそうな、そういう気分。幼児的な創作の世界に戻っていけそうな、そういうムードもある。

butajiさんのライブ、素晴らしかった。12月の体調大転落により、これが結果的にライブ納めになる。

2021年12月

髪の毛をがっと短くする。
大幅なスタイルチェンジは久々で、何もかもこのあとの体調不良の予兆でしかないと今なら気づける。なんとかモードをチェンジさせてこのあとのデッドエンドのような日々を遠ざけようとしている自分の無意識のいじらしさ、泣ける。よしよしとしてあげたいが、まだこの時はアクセル踏み込めばいける、と思っている。

「MOTION GALLERY CROSSING」特集は、『薄めず広める』として、水野蒼生さん(指揮者/クラシカルDJ)と、永井玲衣さん(哲学研究者)をゲストにお迎え。年末最後の回にして、神回になったと思う。永井さんの初単著『水中の哲学者たち』は今年ベスト本。
https://propo.fm/motiongallerycrossing/75

カワハギを釣ったり、柔術したりなんだりしていたけど中旬からどんどん失速していく。

そして、とうとう体が完全に悲鳴を上げた。4年ぶりくらいの大転落状態でかなり危ない状態。色々な人の力を借りて、ある仕事は手放すことを決めたり、ある仕事は直近のものをごめんなさいしたりした。夏場からだましだましやっていたのが失敗だったということだ。あの段階でまとまった休息を体は必要としていたし、だからこそ引っ越しを急ぎたかったのだと理解した。引っ越し、ギリギリ間に合わなかったようなタイミングだが、倒れ込んだあとの休息を前の工事中のマンションでは満足にとれなかっただろうから、なんとか間に合ったとも言える。

そのタイミングで新型MacBook Proが届く。これは吉兆だった。データを全て引き継がず、いるものだけを入れ直す。過去から未来を切り離していく。リボーンのきっかけはそういう些細なところからやってくる。主治医との対話からもヒントを得る。生活の再建、日課の構築、創作と文化の逆襲。休息をとりながらそういう年末年始を過ごしている。

(ほんとうはこの後に2022年やっていくあれこれを書く予定だったが、ここまでで11046字、原稿用紙30枚に達したので別のエントリにまとめます)